「言葉」の講義をしてきた

朝=肉うどん/昼=東中野「大盛軒」の鉄板麺

2年くらい毎日書いていた日記も、一度さぼってしまうと元に戻すにが大変だ。4月の個展と京都でのグループ展が終わってようやく平常モードになったので日記も再開。

昨日は母校での年2回の特別講義の日だった。今年で3年目になる。学校側からのリクエストは現代写真の話なんだけど、コロナの時はzoomでの授業だったから気が付かなかったが、昨年から対面授業が始まると、僕の話が全く通じていないということがわかった。対面で話をしていているのに、言葉が彼らを通り抜けていくような感じで、全く届いていないのが学生の表情からわかった。どうやら僕は場違いなことを話している。

そこで、今回は最初に何年生が受けているか手を挙げてもらった。すると9割が1年生と2年生。今までもそうだったとすると、そりゃ話が通じないわけだ。現代写真の講義を頼まれていたので受講者はてっきり上級生だと思っていた。それがわかったので、1年生と2年生に向けての話に切り替えることにした。

彼らが4年になって必要となるものは何か? それは「言葉」。言い換えれば「語彙力」。単純に写真家の名前だ。なぜかというと4年生になりゼミ形式の授業になると、写真家の名前がポンポン会話の中に出てくる。この時に知っているのと知らないのでは授業内容の理解に大きな差が出てくる。作品制作はリファレンス(参照)の行為が必須で、先生はそのことについて「この写真家を参考にするといい」という言い方をする。知っていれば「なるほど、あれか」と思えるから調べる気にもなるが、知らないとどうなるか? わからないから調べる気もなくなる。

ではどうやってその語彙を増やすかといえば、いろんな先生に「好きな写真集なんですか」と聞いてまわればいいのだ。ジャンルを問わず、言われたものは全部見てみる。その本は学校の図書館に必ずあるのだから。そして「先生のおすすめの写真集、見ました」と報告にいく。するとそこから写真を挟んでの対話が始まる。それをメモしておけば語彙力がどんどん増えていく。4年生になった時には、全方位で写真の話ができるようになるわけだ。

そこで得た言葉は、社会に出たときに他ジャンルの人たちとも会話ができるツールになってくれる。ほとんどのことは繋がりを持っている。するとまた語彙を身につけることができる。「言葉を持っているか持ってないかで、人生は変わってくるよ」という内容を話してきた。どうやら今回は話が通じたようで、講義が終わってから、質問しにくる学生たちの列ができた。よかった!

<2019年5月11日の日記から>

新宿バスタ4Fから午前0時25分発のバスで新潟へ。6時にバスが着くとスタバで時間をつぶし、8時40分に米沢行きの電車に乗る。この電車は米坂線と乗り入れている。先月も撮影に行ったのだが、再度春を撮りに乗り込んだ。これでほぼ材料は出揃ったが、梅雨の時期も撮りたくなってきた。書籍のほうも前書きと後書きを終えて、来週編集者に渡せば、あとは校正チェックくらい。ようやく手を離れる。昨年6月から始まっているから1年がたとうとしている。1年でようやく一冊。年に何冊も出している作家の頭はどうなっているんだろうな。米沢市には上杉謙信の博物館がある。そこでは織田信長から謙信公に送られた「洛中洛外図屏風」をたまに見ることが出来る。国宝中の国宝と言っていいくらいのものだそうだ。米沢市の財政がいよいよ苦しくなったら売ったりできるんだろうか?無理だよなあ。この屏風絵絵は小さい頃から何度か見たことがあるのだが「ふーん」くらいの感想しかなかった。ところが今回新たに見ると、面白さに気がついてしまった。この屏風絵には京都の市中と郊外の庶民の暮らしが細かいタッチで描かれている。シーンごとにドラマが描かれていて、四季折々の風景が見える構成になっているから見ていてあきない。そして画面の中に「陰影、画面の中心点、遠近感」が見事にない。これは今書いている本の中で何度も触れている現代アートのロジックだ。そして高解像度で情報量が多く、空が描かれていないのは現代風景写真と同じ。
この屏風が制作されたのは1574年。千利休の「佗茶」が最新の現代アートにつながるという話も本の中で書いているが、「洛中洛外図屏風」もまた現代に通用する考え方で制作されている。そんなことに気がつけるだけで、見ることがより楽しめるようになった。
と言う本を出しますのでよろしくお願いします(笑)

<2007年5月11日の日記から>

現在上海空港、朝の7時35分。6時にホテルを出て空港の970円の肉うどんを食べて9時5分の出発をロビーで待っている。こんなにもすっきりした朝は久しぶりだ。体も心も軽い。上海に来てよかった。上海は2001年に仕事で来て以来2度目。前回は1週間滞在したものの印象が薄く、上海料理がおいしくなかったという記憶しか残らなかった。先週末、友人の写真家海原修平から上海美術館で写真展を開くという連絡があった。どういうわけか彼の写真展の期間中は、ぽっかりと僕のスケジュールがあいている。決まっていた打ち合わせをずらしてもらい、急遽上海へ飛んだのだ。海原さんは1995年から上海に通い詰め、4年前からは仕事の拠点をこちらに移している。彼は5歳年上だが話が噛み合い、東京に事務所があるときにはよく遊びにいっていた。赤城耕一氏との共同事務所で、そこに行くと見たことのないカメラや機材が転がっていた。なんとなく高校時代の部室のような雰囲気だった。彼が上海に通い始めたときから知っていたし、1997年に開いた写真展「老上海」も見ている。上海に移住してしまってからは会う機会は少なくなっていたが、いつか訪ねてみたいとずっと思っていた。今回の写真展はまたとないチャンス。美術館で個展をやれる名誉なことをこの目で見ておきたい。同じことを考えたようで、共通の友人であるIも別便で一緒に行くことになった。火曜日夜出発の金曜日朝帰り。HISで税込み71000円の格安チケット。中2日ではあるが写真展を見るなら十分な時間がある。上海は成田から3時間ちょっと。気持ち的には大阪に行くのとあまり変わらない。空港で出迎えてくれた海原さんと、まずは彼の事務所に向かう。彼と日本人CFディレクター、韓国人アーティストの3人で大きな事務所を作ったとは聞いていたが、実際に目にして腰を抜かした。