暗室も来週には使えなくなる。そう思ってプリントすることにした。
事務所スペースは足の踏み場もないけれど、暗室はまだそのまま、いつもと変わらない。
7台ある引き伸ばし機の中で、モノクロはLPLの4x5インチまで焼ける引き伸ばし機を使っている。コントラストがちょうどいい。
イルフォードの印画紙で“demain”の中から3カットを8x10インチ に焼いた。たぶんここで焼くのも最後だろう。いつものようにTBSラジオを聞きながらの作業だった。
これからは人の暗室を使わせてもらうことになるから、プリントが変わるかもな。
隣に住むSの部屋は、ほぼすっからかんになっていた。水曜日の朝8時にここを出てフランスに向かう。
短い言葉をかけ、お別れの握手をした。
10年くらい前に、ビジネスで成功した人から「僕はその人と仕事をするかどうかは、初対面の時の握手で決めてます。これが一番間違いがないんです」と教えてもらった。
叩き上げで、ひとりで大企業相手に渡り合ってきた彼の言うことはいつも面白い。以来僕も会う人ごとに握手する習慣がついた。
握手をするとたしかにその人の性格とか習慣が分かるような気がする。パッと手を握ったときに、ちょうどいい手応えで返してくれる人とはうまくいきそうな気がするし、勢いみたいなものも感じることがある。
Sは親指と人差し指の根元までグッと差し込んでギュッと握ってきた。
勢いがある握手だった。