一軒家に引っ越してから表札のことが気になっていた。以前の表札の上にとりあえずで貼り付けたのはマジック書きで書いた白いプラスチック板。いかにもその場しのぎだ。
そんな話をしたら大学時代の後輩が表札を作って送ってくれた。アルミ製の立派なもので「渡部」と彫りこんである。
添えられた手紙には「学生時代渡部さんからお金を借りたままになってます。だから代金はいりません」とあった。いくら貸してたんだろうな。せいぜい2千円くらいだろう。それを憶えていたんだと思うとなんだか嬉しくなった。
彼は五島列島から出てきて僕のアパートの近くに住んでいた。お互いお金はまったくなし。だから借りたお金のことが忘れられなかったんだろう。
表札ができたことでやっと自分の家になった気がする。