長ナスの油上げ。

映画「クライマーズハイ」を観た。

見る前は怖かった。冒頭から30分は心臓がドキドキとなって落ち着かず足を何度も何度も組み替えた。

日航機墜落を題材にしているが、内容は地方新聞社デスクの苦悩だ。

3年しかいなかったのに、もう20年以上前の話なのに、その細部が手に取るように分かる。編集と販売のせめぎ合いで、15分、たった15分下版を遅らせただけで販売が血相をかかえて怒鳴り込んでこんでくる下りは懐かしいとさえ感じてしまった。

そしてあの記者のデスクに対する物言いは現場の雰囲気そのもので、あの当時自分も新米ペーペーのくせに上に食ってかかったことを思い出した。

事故現場に登った記者が無線を導入してくれと懇願するくだりは、まさしく自分が現場でデスクに何度も電話で訴えたことだった。

当時はまだ携帯電話がない。かろうじて自動車電話があったが、超高級品で手に入れるのは難しかった。たった24年前の話だ。携帯があれば何の苦労もないことを走り回って連絡を取ろうとしていた。

そして電話がない場所ではすべて自己判断を求められる。「どうしたらいいですか?」とお伺いをたてることはできないのだ。

今、目の前にあることを自分で判断しなければならない。たとえそれが新人であっても現場に頼れる人はだれもいない。周りにいるのはライバルだけなのだ。

もしあの事故がなければ、おそらくもう少し新聞社に留まっていただろう。そしたら新聞社の面白さが分かっていたかもしれない。

そんなことずっとありえないと思っていたが「クライマーズハイ」を観て気持ちが動いた。

でもないだろうな。あの人たちは新聞が大好きなのだ。元旦にしか休まないという人までいた。

家に帰るのは毎日下版が終わる11時30分。家に着く頃には日付が変わっている。それでも次の日は早朝から取材がまっている。

それでも面白いと感じる人がたくさんいる。そんな世界だ。

実はいまだに新聞社の夢を見てうなされる。PTSDのようなものだ。刺激的で面白くて辛い日々だった。