モンゴル6

移動初日、10時間のドライブを経てようやく「ノミンキャンプ」と名づけられたツーリストゲルに到着。

「ノミン」とはモンゴル語で宝石のターコイズを表す。ターコイズブルーと呼ばれるが、「青」はモンゴルにおいて神聖な色だ。神事の場所には必ず青い布が掛けられていた。

ゲルに荷をほどくとベッドに横たわる。長時間の揺れに背中が板のようになっている。しかし不思議と疲れはない。

円形のゲルには3つのベッドが備え付けられている。中央にはかまどがあるが、煮炊きをしないツーリストゲルのため夏の今は取り外されていた。

天井が開いているため気持ちのいい風が通り抜ける。日中の気温は35度を軽く超すが湿気がないため汗が噴出すようなことはない。日が暮れるのは10時半。太陽はゆっくりゆっくりと沈む。

日が隠れると急激に気温は下がり、Tシャツ姿から長袖を着込み、それでも足りなくて厚手のジャンパーが必要になる。体感では5度前後というところだろう。寒暖の差が30度近くになるのだ。

キャンプでの食事は羊の肉を包んだ蒸した餃子のようなものだった。ボーズと言い、一般的なモンゴルの食事だ。そのほかに米や小麦の主食が付くことはない。モンゴルで料理と言えば羊料理のことだ。羊の肉を煮るか、蒸すか、炒めるかくらいしか料理方法はない。焼くことは一般的ではないようだ。

量的には日本で食べる八割くらいなのだろうが、おいしくて十分満足できる。食事も済みお茶を飲んでいると、旅芸人がやってきた。ひとり5ドルで演奏するがどうかと言う。願ってもない申し出だ。

一座は馬頭琴と洋琴、横笛と馬頭琴のベースという編成。そこに女性のボーカルとホーミーを操る男性がいる。馬頭琴は中国の二胡のように2弦の楽器で、弓を使って演奏する。弦巻の部分が馬の頭の恰好をしている。ホーミーは一度にふたつの音を出すモンゴル独自の声楽法で近頃は日本でも紹介されることが多い。

夜9時半、夕焼けの草原を背景に演奏が始まる。馬頭琴は中国の二胡に比べ低音で音圧が凄い。反響するもののない草原で確実に前に音が出ている。マイクなど使わなくてもしっかり届く。

いつのまにか僕らの後には現地の人が集まってきていた。赤く暮れる空の下で聞くホーミーは体の芯に響くようだ。モンゴルの出だしは初めからドラマチックだった。