遅めの夕食をとるために事務所の近所の小さな中華屋に入った。
餃子が有名でいつ行っても混んでいる。女主人は中国の出身で上海からちょっと奥に入ったところだと言っていた。厨房前のカウンターと奥に小さなスペースがあるだけのお店は、外見は立派とはいいがたいが値段が安くて味がいい。
カウンターに座って瓶ビールと羊肉の水餃子を注文した。それと豆もやしを合えたもの。
ビールメーカーの名前が入った作りの薄いコップにビールを注ぎ、豆もやしを口に運ぶ。水餃子は酢醤油とラー油の組み合わせではなくて黒酢だけで食べる。口の中でわずかな羊の香りが広がる。それを流すようにもう一口ビールを飲む。
ひとつおいた隣の席に若い女性が座った。身長は160センチ弱、太ってはいない。短めの髪が頬のあたりにかかっている。
ほどなくして彼女の前に注文の品が並べられた。焼き餃子と麻婆豆腐とご飯。ご飯は大き目の茶碗に、漫画に描くような山盛りだった。
彼女は手を顔の前で軽く合わせてお辞儀のような形をとった。割り箸をパチンといわせると焼かれて繋がった餃子を丹念に切り離していった。
焼き餃子は大きな羽がついていて、それがこの店の売りになっている。その羽がたっぷりついた餃子を躊躇することなく一口で口にほおばるとゆっくり食べ始めた。そしてご飯を一口、麻婆豆腐をレンゲで一掬い。
途中ペースを変えることなく餃子とご飯と麻婆豆腐を順番に口に運んでいる。水を飲むこともなく、休まずただひたすらに食べている。
僕はテレビを見るふりをしながらその食べっぷりをずっと見ていた。横から見える彼女の姿は終始背筋を伸ばして座っていてる。
ご飯を食べ終わると最後に皿に残った麻婆豆腐をレンゲできれいに掬い取り彼女はすべてを食べ終えた。水をコクリと飲むと白い喉がわずかに上下した。
「ごちそうさまでした」と店員に告げると値段を聞く前に1000円札とわずかな小銭を大きめの財布から取り出した。それを女主人に支払うと立ち上がり店を出て行った。
彼女を見ている間にビールも水餃子もすっかりなくなっていた。
コップにわずかに残っていたビールを飲み干すと、麻婆豆腐と大盛りご飯を注文した。