ニコンの逆襲

朝 玄米の野菜トマトリゾット、半熟卵

夜 なめこと豚肉のきのこ鍋、お餅

プロジェクターでAmazon Primeの「ローマの休日」を音声を消して流してみた。「何となくぼんやりした映像が欲しい」という妻からは、まだいろいろ問題点を指摘されるけど、とりあえずいい感じだと思う。プロジェクターとスクリーンは30度くらいの角度をつけている。端っこの解像度は低いが、そもそも照明をつけた状態で使っているので気にならない。

映画プロデューサーから映像史を教えてもらう。リュミエール兄弟から始まってハリウッドの誕生。無声からトーキー、そしてカラーになりそれがデジタル化へ。映画は映画館で見るものだったが、ビデオレンタルができて、それがDVD、ブルーレイへ。ついに物質的なものはなくなり配信が動画の主流になる。そして現在はサブスク。ディズニーは新作を映画館にかけないで、ディズニーチャンネルだけで配信する。映画館や配給会社に取られていた分がそっくり入ってくるから旨味が大きいわけだ。コロナの影響でなかなか映画館に人が戻ってこない。特に映画館を支えていたシニア層が人混みを嫌って映画館に足を運ばなくなった。映画を作る場合、映画館でのみで収益を上げるのはほぼ無理。頼みのDVD、ブルーレイは売れず、収益をどこでまかなうか頭を捻らなくてはならないそうだ。音楽業界もCDを売って稼ぐビジネスは崩壊していて、ライブ配信が大きな収入源になっていると聞く。

では写真もそうかといえば、オンライン写真展やデジタル写真集はいまいちパッとしない。オンラインで上手くいっているのはインスタグラムくらいだろう。いまだにリアルでの展示や写真集がほとんどだ。なのにカメラだけはすごい性能になっている。先日発表された「ニコンZ9」は信じられないスペックだ。画素数を落とせば秒間120コマとか、8K内部収録が2時間できるとか、AIを使ったAF認識だとか、現在最高のスペックで60万円台だ。ソニーのα1やキヤノンEOS R3とか完全に霞んでしまった。やるときはやるねニコン。形が一気に逆転する可能性が出てきた。カメラはすごいものが用意された。さあ、使い手はどうする。

 

<2017年11月6日の日記から>

ニコン

僕が写真を始めた頃、つまり高校生だ。考えてみたら40年前じゃないか。16歳のときにカメラの新製品広告が見たくてカメラ雑誌を買った。当時はカメラ自体が見開きで大きく掲載されていて、これがかっこよく見えたものだ。カメラは金属の塊で、見た目にもずっしりとした持ち重みのするものだった。広告の定番は最高級機を中心にレンズやアクセサリーといった全製品が一堂に並べられたもので、顕微鏡から宇宙までカバーするそのラインナップは田舎の高校生の心を大きくくすぐった。オリンパスOMー1を持って写真大学に入学すると、周りはニコンとキヤノンばかりで驚いた。20歳になるとオリンパスからキヤノンへと移り、以来ずっとキヤノン派だ。ニコンはどこか権威的で堅物のイメージがあって「二番手」だったキヤノンにしたのだ。

ニコンは仕事を始めた1年間だけ会社からの支給品で使っていたことがある。新聞報道でニコンは絶対的な存在だった。会社の機材ロッカーには高校生の頃雑誌で見たレンズがズラリと並んでいた。中にはひとりで持ち運ぶのが困難な超望遠レンズや、奥の方にはレンジファインダー機もあった。個人支給品はニコンF2チタンモータードライブにF3P、28ミリと80-200のズームレンズ。300mmf2.8は標準レンズのようなものだった。でも辛い事しかない新人時代だ。何かを変えたくて2年目からはカメラをキヤノンに変えた。だからといって状況は何も変わらなかったけれど。ニコンを見るとあの時の張り込みの日々を思い出す。

近頃はニコンからソニーに切り替えたというカメラマンの話をよく聞く。高級コンパクトデジタルカメラを発売直前でやめたり、広告が男性中心だとネットで炎上していた。もうニコンの時代は終わってしまったんだろうか。先日ニコンサロンに写真展を見に行ったときに、ショールームに置いてあった新製品のD850を触ってみた。ボディを握った瞬間、これは凄いものを作ったものだと驚いた。良いカメラに共通しているバランスと言えばいいのだろうか、ボディが手の中にきれいに収まる。ファインダーを覗くとそれは確信に変わる。スクリーンに電気信号ではなく、実像そのものを見る幸福。デジタルカメラの中で最も美しいファインダーと言っていい。シャッターに指をかけるとオートフォーカスがスッと滑らかに動く。指先に力を入れるまでもなく、脳と連動しているかのようにシャッターが切れる。ミラーレスカメラの優位性が語られて久しいが、明らかにD850は別次元のカメラだと思う。撮影したわけではないから発色とかは分からないが、間違いなくいいはずだ。なぜならボディだけ素晴らしいなんてことはないから。ニコンってすごい会社なんだなあと改めて思った。40年の間、様々なカメラを使ってきた。それでも触っただけで驚くような一眼レフが作れる会社なのだから。