内藤さゆりが、写真集「4月25日橋」を持って事務所にやってきた。http://sayuri7110.petit.cc/
彼女が昨年春頃からこの写真集を作るのにいかに大変だったかは逐一聞いていた。デザインの問題、印刷の問題、写真集を作る上でおきる問題の全てが降りかかっているのではないだろうかという具合だ。
出版元の冬青社の作る写真集はもはや世界が認める印刷のクオリティにある。だから印刷に関して社長は一切の妥協を許さない。
彼女と社長は時には激しい喧嘩までになるほどお互いの考えをぶつけていた。それは周りから見ていてハラハラするものだった。彼女からは何度も泣きの電話が入り、いつのまにか僕はそれを翻訳して社長に伝える役回りとなった。だから出来上がりがとても気になっていた。
手渡された本をゆっくりとめくっていく。ポルトガルで撮られた写真は、日本では感じることのできない色であふれている。それは派手であるとか地味であるとかということではない。
一時代を築き、それが緩やかに衰退していく過程で生まれる時代の色。ヨーロッパの色だ。
めくっているうちに気がついた。コニカフォトプレミオを受賞した作品「多摩川日和」にとても近いのだ。ホルガで撮った「多摩川日和」に対して「4月25日橋」はハッセルで撮られている。でも機材の問題ではなくて物の見方が彼女らしいのだ。
彼女はまだ30歳。その年で写真集デビューをできる写真家は極めて少ない。コニカミノルタ、キヤノンサロンでの個展、そして写真集の出版と彼女は着実に歩みを進めている。
写真家にとって自分の写真集があるかどうかは、とても重要なことだと作ってみて分かった。そして作るより売ることのほうが数百倍も大変だということは、これから彼女が実感するだろう。
「まずはベッド、それからテーブルで最後に椅子」これは写真家北井一夫の名言だ。でも気になった時には売り切れて高値になっているのも、また写真集の面白さだ。