モンゴルで見たことを話そうとすると、みんな嘘に聞こえる気がする。
初日、400キロ近く車を走らせたのに、一度も道が交差しなかった。400キロと言えば東京から軽く名古屋を超える距離だ。なのに窓の外の風景は大草原のまま、まったく変わらない。
貧乏性の僕は「もったいない、もったいない」を繰り返す。広がる草原がほったらかしになっているように見えるのだ。
車をとめて草原に立つと遠くに山並みが見える。ぐるっと見渡しても、その間に遮るものは何もないのだ。
大地から生える虹を見た。虹はきれいな半円を描いて地上に降りている。生まれての初めて見る完全な虹のアーチだ。
虹の橋をくぐろうとする気持ちが理解できた。くぐれそうな気がするくらい、虹はすぐそばにはっきり見えた。
草原の向こうに街並みのようなものがぼんやりと霞んで見えた。街並みのようなものは地上から浮いて見える。蜃気楼だとドライバーが教えてくれた。
見るもの触れるもの全てが想像をはるかに超えている。今までは何を見ても、どこかで見たような気がしていたのに。
ずっと長い間、「旅はひとり」だと頑なに思い込んでいた。仕事で海外に行く時以外は、いつもずっとひとりだった。
2年前、目を悪くしてから考え方や感じ方がちょとづつ変わってきた。「こうあらねばならない」というこだわりが段々薄れてきたのだ。
今回のモンゴル行きにはワークショップで知り合った5人が一緒だった。現地で待っていた海野さんもワークショップの受講者。つまり全員が写真好きの一団だ。
写真を撮るのに気兼ねする必要はどこにもない。かといってツアーのように皆が同じ方向を向いて三脚を並べることもしない。
持って行ったカメラはライカM3、M4、M6、オリンパスOM-1、ニコンFM10そして僕のピンホールカメラだ。ピンホールだけでは心配なのでコニカヘキサーも一緒に持っていった。