モンゴル3

捌くのは男の仕事。女は内蔵をよく洗い、血に塩と小麦粉と玉葱を混ぜ腸詰を作る。肉は塩で茹でられることが多いが、今回は特別料理を作ってくれた。大きな乳絞りの缶に焚き火で熱した焼き石と水を入れ、肉と玉葱を放り込む。その上にまた焼き石を入れ、肉を重ねる。厳重に蓋を締めると簡易圧力鍋の出来上がりだ。肉は蒸し焼きにされ、焼きしに当たったところに焦げ目が付く。

15分ほど焚き火にかけ出来上がりを待つあいだに、彼らは相撲を取り始めた。モンゴルは相撲が盛んなところだ。日本の相撲と違って背中が地面についたら負けになる。

男は皆いい体つきをしている。手がぶ厚く、肩幅もあり、筋肉が盛り上がっている。日本人もモンゴルを祖としているが、人種がまったく違う気がする。握手をすると手が潰されそうだ。馬に乗り、牛や羊を捕まえて出来た生きた筋肉だ。横綱朝青龍が強いのは当然のことに感じた。

相撲を二番取り終えたところで焼き石料理は完成した。蓋を外すと内部の蒸気が吹き上げ、辺りにいい匂いが立ち込める。食欲をそそるなんともいい香りだ。アルミの鍋に肉が取り出される。鍋にはナイフが3本、箸やフォークは使わずナイフで削いだ肉を手で食べる。水分は羊の旨みをたっぷり吸ったスープになるのだ。

骨が付いた回りの肉が旨い。ある程度食べて口の中が脂っぽくなったところで、日本から持参した醤油と胡椒をこっそりかけてみた。うまい!口に入れた瞬間、まるで別の食べ物になったかのような錯覚をおこすほどだ。

翌日は血のソーセージと内蔵を煮たものを食べる。ソーセージは新鮮なレバーを食べているような食感で、生臭さは微塵も無い。レバー、肺、心臓も食べたが心臓が一番おいしかった。

わずか30分前そこらを歩いていた羊が腹の中に収まる。食べることに責任を抱く。血の一滴も地面に流さないのは羊に対しての尊敬なのだと感じた。