モンゴル2

食は羊肉と乳製品で、ウランバートルに住む人以外は野菜をほとんど食べない。そのかわり、羊は肉から内臓、血にいたるまで全てを食べる。「オールイート」の考え方だ。冬は肉を、夏は乳製品を多く摂る。

モンゴル人は羊肉が大好きだ。日本人が米を愛するように羊肉を食べる。モンゴル人とすれ違うと体臭から羊の匂いがする。実際、8日間羊を食べ続けたら、体が羊臭くなった。おしっこまで羊の臭いがするほどだ。

出合った牧民(遊牧民)に言わせれば「俺は肉しか食わない。草(野菜)を食うのは家畜だけだ」ということだ。

日本では羊の肉は臭いというのが定説だ。僕自身もラム(子羊)は好きだが、マトン(成羊)は臭いが強くて苦手だった。ところが今回の旅ではまったく気にならないどころか、羊はおいしいという印象しかのこらなかった。羊を食べる文化があるということは、羊をおいしく食べる文化ということだったのだ。

とにかく新鮮な肉なのだ。どのくらい新鮮かと言うと、その場で絞めてそれを食べることもあるのだ。これ以上新鮮なものはない。今回の旅では、幸運にも牧民の家に泊めてもらった際に、羊を一頭絞めて食べさせてもらえた。

「血の一滴も大地に流さない」のが彼らの決まりごとだ。まず、仰向けにした羊の腹を素早くナイフで5センチほど裂いて、手を突っ込み心臓を取り出し絶命させる。この間、瞬きをすると何がおきたか見逃してしまうほどだ。羊が一言も発しないうちの出来事だ。

その後はベリベリと皮をはがすように剥いていく。ナイフ1本、流れるような手順であっという間に解体していく。みるみる生き物は食材へと変化していく。その間も血が流れ落ちることはない。肋骨を外し、内臓を取り出し、中に溜まった血は茶碗でかき出す。時おり茶碗の裏側の高台でナイフを研ぐ。

20分ほどで全ての作業は終了する。一緒に行った仲間の女性が「エレガント!」と言ったのも頷けるほどのものだった。