友人が「いい写真が載っている」と一冊の雑誌を見せてくれた。
雑誌は「モノマガジン」、その中に7ページに渡ってスリランカの写真が見開きページで大きく掲載されていた。どれも見ごたえがあるものだったが、その中でも1点、不思議な魅力のあるモノクロ写真があった。
直径おそらく20センチ、高さ3メートル弱の木の棒が、海の中に5本、間隔を置いて打ち込まれている。棒にはちょっとした足場がつけてある。1本の棒には、男がひとりしがみついている。手には釣竿が握られている。漁をしているのだ。
おそらく引き潮の時に棒を砂浜に打ち込んでおくのだろう。満潮の時は棒が海中から突き出す格好になる。船を使うよりはるかに安上がりに、魚のいるポイントに釣り糸をたらすことができるのだ。インドネシアではそれを巨大にした、海の門のような釣り座があると聞いたことがある。
写真には5本の棒が絶妙のバランスで配置されていて、その中の4本に男がしがみついている。シルエットになって表情は分からないが、楽しそうな様子ではない。思うように釣れていないのだろう。
背中を丸め、見えない魚をじっと待っているようだ。今日の糧は釣れたのだろうか、空に低く垂れ込める雲が胸を締め付ける。
もしかしたら僕の前世は、この棒にしがみついていたのではないだろうか。
写真家の名前は小川日出登とあった。
巻末の解説を読むと、ある機内誌に載っていた1枚の写真を手がかりにこの場所をみつけ、シノゴのカメラを担いで撮りにいったとある。
そして、スマトラ沖地震に胸をいため、雑誌に掲載した写真をプリントとして販売し、その金額を全額地震復興のために寄付するとあった。