ジンバルのように動く体だったのか?!

朝=暗殺者のあんかけパスタ/夜=高円寺「フジ」のチキンソテー

コロナで外に出る習慣が3年間なくなって、その間に体が固くなってしまった。左足の付け根の可動部分がかなり狭くなっている。そうなると胡座が辛くて、できなくなってしまう。もともと筋肉がつきづらい体質で「積極的な運動はむしろ体に支障を生じるからおすすめできない」と、以前に整形外科の医者から言われてしまった。しかし写真を撮るのは体を使う行為だから、可動範囲が狭まっているのは気になっていた。

妻はヨガに通っているし、自分も何かないかと思っていたら、家の近所に「靭トレ」という看板を見つけた。「筋肉ではなくて、靭帯を鍛えるってこと? 」って、ちょっと興味が湧いたのでお試しで行ってみることにした。

トレーナーは同い年の62歳で、さまざまなところを掛け持ちしてやっているそうだ。彼は僕の体を動かしながら「植木屋さんですか?」と聞いてくる。違うと答えると「たこ焼き屋さんとか?」。どうやら特殊な職業の人の体つきなんだそうだ。狭くて体の自由が効かないところで、手足ではなくて、体全体を動かして作業をする体つきだと言う。

「仕事はカメラマンです」というと、「そうなんですね! 実は、こういう体つきの人を説明するときに、よくカメラマンも例えに出すんですよ」と驚いていた。確かに僕自身、撮影のときはカメラの位置を変えずに前後左右に動くことはよくある。

関節を開くことで体を動かすタイプなんだそうだ。動画のカメラに使うジンバルのような動き。軸を動かさずに部位だけが動く感じ。あちこち体を触りながら「いやー、珍しい」を連発する。どうやら筋肉は硬いが関節がそれを補っているようだ。長年の撮影行為でそうなったのか、もともとの体質なのかはわからないけど、写真を撮るのに都合が良い構造になっているみたいだ。

<2021年9月13日の日記から>

朝、テレビをつけたら「写真甲子園」の番組をやっていた。本来は北海道東川町で行われるのだが、今年は課題を地元で撮影し、リモート審査を受けるものになっていた。写真に順位をつけるのって難しい。1位と2位の差がどこにあるかなんて明確な答えはない。体操とかフィギュアスケートのように、見た印象を技術点として割り出すこともできないし、そもそも技術が高いから良い写真とは限らない。ロバート・フランクのプリントはゴミだらけだったりする。高校生相手だけに「写真甲子園」の審査員も大変だろうな。今年の優勝校は沖縄工業高校だった。最終的に提出された6枚の写真はロング、ミドル、アップ、広角、標準、望遠を使い分けて沖縄の生活をとっていた。わずか数日で撮られたとは思えないバリエーション豊かなものだった。まるでユージンスミスのフォトエッセイのようだ。確かに僕が審査員でも間違いなく推すだろう。しかしこの方法論は、1960年代の雑誌掲載を前提としたもの。60年も前の「良い写真」の形だ。コンテストにはレギュレーションがあるから、上位入賞のためのテクニックというものは存在する。ツボは間違いなくある。番組で追いかけていた女子学生が最後に「そういうものから離れた写真をこれから撮っていく」と語っていた。なんだ心配しなくてもちゃんとわかっているんだな。

<2013年9月13日の日記から>

アレック.ソス。ちょっと変わった名前の写真家が今世界で注目を浴びている。最年少でマグナムの正会員になって、出す写真集はあっというまに売り切れ、無表情の全身ポートレートと、風景とアブストラクト(抽象的)なものを組み合わせたソススタイルは、ここ数年写真のスタンダードになっているところがある。その彼が来日して様々なイベントを行うというので、昨日スライド&トークショーに行ってきた。彼はレビューサンタフェでアワードを獲り、その後大きく活躍したとあって向こうでも話題に上ることが多かった。僕はお土産代わりに現地の写真集専門の書店「Photo eye」でソスの写真集を2冊買って帰った。1冊は、いわゆるソススタイルになる前のモノクロスナップのストレートな写真だ。これがなかなか面白い。ちょっとナイーブというか、ガンガン攻める写真ではない。経歴としては最初は彫刻を専攻していて後に大学の授業がきっかけで写真を始めている。意外とも思えたのがロバートフランクに大きな影響を受けていると言っていたことだ。トークショーの中で記憶に残ったのは、

「移動が大事。物理的な場所の移動も、写真の中の視線の流れも」「アメリカを撮る。しかし海外にも行く」「写真の並べ方には自分だけのルールがある。並べられた1枚目と2枚目には隠された共通点が潜んでいるが、あえて説明はしない」「最初はポートレートを撮るのが苦手でガールフレンドしか撮れなかった。訓練としてまず子供を撮り始めて、その後はあんまり怖そうじゃない人を選んで撮影していた」「本にするのが好き。出版社の社長でもある」「(ソスと言えば8X10のカメラを使うことで有名という前提で)今回は8X10のカメラを持ってきたのか?という質問にに対し、僕が8X10のカメラで撮ったシリーズは2つだけ。プロジェクトに合わせてカメラは変えていく。今回はデジタルカメラ(会場に持ってきていたのは八セルのHシリーズだった)だし、先月旅行に行ったときはディスポーザルカメラ(使い捨てカメラ)だった」「プロジェクトありきで写真を撮る。大きなものだけでなく小さなプロジェクトもたくさん行う」「写真の制作を行うにはまずは訓練が必要で、全てをコントロールできるようになったら肩の力を抜いて撮る。”マッスルメモリー”を身に付けるにはおよそ10年が必要と言われているが自分もそうだった」「卓球が大好き。日本でも卓球大会をやるから皆来てね。大きなトロフィーも用意したから」。

今世界でもっとも注目度が高い写真家のトークショーということで、どんな難しい話になるかと思ったら、普段自分が考えていることと似ていて驚いてしまった。しかも卓球好き。写真の質問じゃなくて卓球の質問したほうが喜んだに違いない。ソスはとてもフレンドリーらしく、ショーが終わっても丁寧に質問に答えていた。卓球大会行ってみようかな(笑)