ローライフレックス2.8F「プラナーとクセノタール」

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今日は、「ローライフレックス」の話です。

 ローライ社は100年前の1920年に創業したドイツのカメラメーカーです。その中でも2眼レフの「ローライフレックス」はいまでも使われています。特に女性に人気のカメラで、僕のワークショップでも愛用者が多くいます。

 

コンパクトカメラの「ローライ35」や、一眼レフタイプのシリーズもありますが、「ローライフレックス」はレンズがふたつあるので2眼レフ。上のレンズはピントや構図を確認するためのもので、下のレンズが撮影用で、フィルムサイズは6x6センチの正方形。そういえば2眼レフのデジタルカメラってありませんよね。あれば面白いんだろうけど、まあ意味がないか。

 2眼レフカメラは構造が簡単なので、戦後は日本もたくさん作っていました。いまGRを出しているリコーも、「リコーフレックス」という大ヒット2眼レフを作っていましたね。

 

 僕が「ローライフレックス」を最初に買ったのは29歳の時ですから、もう30年間ずっと使っています。実は、当初ローライは高くて買えなかったので「華中」という中国製の2眼レフを使っていました。たしか当時で8000円ぐらい。それを使ってグラビアの仕事もしていました。いい感じに描写が甘いんです。それでお金を貯めてローライを買えるようになったんです。

 

2眼レフタイプのカメラはマミヤを除いてレンズ交換ができません。これが同じ6×6で人気機種の「ハッセルブラッド」との大きな違いです。

ハッセルはコンポーネントカメラなので、合体ロボのようにレンズ、ファインダーやフィルムバックなどが変えられますが、2眼レフのローライは買ったらそのまま。アクセサリー類が限られています。

 

アメリカのファッションカメラマン、ヴルースウェーバーがファインダーとグリップをつけて撮っている画像を見て、思わずそのセットを買ったのですが、ファインダーは重いし、グリップをつけるとフィルム交換はできないしで、早々に売ってしまいました。

 

でもかっこいいんですよ。ローライ好きとしては、一度は欲しくなるアイテムです。

1960年代まで、「ローライフレックス」はファッションカメラマンが好んで使っているカメラでした。アーヴィングペンもリチャードアベドンも使っています。

 

2眼レフのローライはレンズ交換が出来ない代わりに、広角と望遠レンズがついた機種も発売していました。「ワイドローライ」と「テレローライ」。

これはレンズ交換が可能なハッセルブラッドに対抗してのものだそうです。

 

コレクター心はそそられるのですが、仕事の撮影でもない限り正方形のフォーマットで標準レンズ以外は、ほぼほぼ必要ないと言い切っても大丈夫です。

個人的には、レンズ交換可能な「ハッセルブラッド」ですら、90パーセント標準レンズでしか使っていませんでした。

なんとなくワイドアングルローライに憧れる気持は分かりますが、持てあますこと請け合いです。

 

面白いのは2眼レフローライには標準レンズが、4パターンも用意されていることです。焦点距離が75ミリで開放がF3.5 のものと80ミリF2.8のものがあります。そして、それぞれにプラナーとクセノタールのレンズが選べます。これはとても不思議です。

数字的には75ミリと80ミリではたった6パーセントしか変わらないし、F2.8とF3.5の絞りは半絞り分でしかありません。

でも、アーヴィングペンはカメラを80ミリから75ミリに持ち替えたときに「世界が違って見える」と言ったそうですよ。

 

僕は90ミリ派です。75ミリは使いません。理由は80ミリつきの方がデザインが好きだから。レンズが大きいせいでバランスがいいんです。

シャッターフィーリングは75ミリの方がいいんですけどね。

75ミリにするか80ミリにするか。これは完全に好みの問題でしょう。

 

先ほどレンズにはプラナーとクセノタールの2種類あるといいましたが、これはレンズを供給しているメーカーの違いです。

 ローライ社は自社ではレンズを作らず、同じドイツにあったカールツアィス社とシュナイダー社にレンズ設計を頼んでいました。

カールツアィス社製がプラナー、シュナイダー社がクセノタールです。1980年くらいまで新品が買えたそうですが、その時はプラナー付きの方の価格が若干高かった。そのせい中古でもプラナーが人気で値段もちょっと高い。

 

よく「プラナーの方が柔らかい描写で、クセノタールはシャープだ。ポートレートにはやっぱりプラナーだよね」とか言われますが、30年使って山ほどプリントしても、あとで見たらプラナーとクセノタールのどっちで撮ったかなんていまだにわかりません。これも誤差みたいなもんです。

 

これを言うとローライ好きには怒られそうですが、どっちのレンズもハッセルに比べたらたいしたことありません。

ハッセルの標準レンズも、カールツアィス製のプラナー80ミリf2.8で、レンズ構成は変わらないはずですが、ハッセルの方が、あきらかに発色がいいし、プリントしやすい。全然違います。これはレンズコーティングの差なんでしょうかね。

1枚プリントするのに、ハッセルだと3枚でOKが出るとしたら、ローライはその倍以上かかる感じです。

 

それでもローライを使い続けているのは、形が可愛いから。ローライをぶらさげていると、カメラ好きの人たちが近寄ってきて声をかけてくれます。人を魅了するデザインなんでしょうね。目玉がふたつあるというのが大きいのかも。

それと壊れづらいし、交換レンズを考えなくていい潔さがあります。

さっきは、たいしたことのないレンズだと言いましたが、その辺も可愛い要素のひとつ。優等生のハッセルに比べて、なんにつけも個性派です。

 

2眼レフのローライを使って作品を撮っている作家というと、やっぱり川内倫子さんでしょうね。彼女の写真に憧れてローライを手にしたと言う人は多いはず。

 

ハービー山口さんといえばライカなわけですが『代官山17番地』ではローライを使っていました。

あとは硬派なところで有本伸也さん。写真集『西蔵から肖像』や新宿のポートレートでローライを使っています。

 

でもあらためて考えてみると、「ローライフレックス」って有名な割には作品として残っているものが意外と少ない気がします。これがハッセルで撮った作品というと山ほどあるのですが。

 ちなみに僕が出した5冊の写真集は、すべて2眼レフローライで撮影したものが入っています。もしかしたら珍しい存在かも。

 

ここで僕が使っているローライを紹介します。いままで2眼レフタイプのローライを4台使ってきました。

 先ほど話した30年前に手に入れたローライは、2.8Fクセノタール。80ミリのレンズ付きです。銀一カメラで26万円しました。使ってみたらとてもしっくりきて、翌週に28万円の2.8Fプラナーを買いました。29歳のときです。クレジットカードの限界額を超えていたので、買うのにひと苦労しました。

 

なんでそんな高いものを、続けて2台も買ったかというと、まず1990年当時はローライがあまり売っていなくて、コレクター用の美品しか置いてなかったのと、仕事のカメラは2台必要という思い込みです。

フィルム時代は必ず同じカメラを2台以上揃えていました。

 

ローライを手にしてからというもの、仕事でもプライベートでもローライがメインカメラです。その2台で撮ったのが南の島のシリーズ『午後の最後の日射』。僕の初の写真集です。

 

それから10年後、クセノタール付きは当時のアシスタントにあげてしまって、残ったプラナー付きを使っていたのですが、落っことして壊してしまいました。そこで新たに2.8Eのクセノタールを買いました。

2眼レフのローライはタイプが数種類あって、いま流通しているのはFタイプが多いと思います。年台によってA、B、C、D、E、F、T、GX、FXとあるんです。

 

2.8Fじゃなくて2.8Eした理由は安かったから。Fに比べてEタイプはファインダーとスクリーンが交換できません。大きな違いはそのくらいなのですが、値段が2〜3割違います。それで撮ったのが3冊目の写真集『da.gasita』です。これはすべて2.8Eのクセノタールで撮りました。

 

2016年に、あらたに2.8Fプラナーを友人から手に入れ、また2台体制になりました。これには改造したマミヤRZ67のファインダースクリーンが取り付けられていて見やすいので、近頃はプラナー付きを使うことが多いです。

 

2台使っていても、相変わらずレンズの違いは分かりません。

アクセサリー類として普段使っているのは、レンズフードとストラップくらい。

モノクロ用のレンズフィルター数種類と、クローズアップ用のローライナーを持っていますが使うことはありません。

 

最短距離が1メートルの「ローライフレックス」ではローライナーが必需品と言われていますが、経験上クローズアップでまともな写真を撮れたことがないので使いません。

むしろ最短距離1メートルはリミッターだと思っています。僕はローライを使うときには1メール以内のものは視野に入れません。だからリミッターなんです。

 

当時のローライ社の技術力がすごかった例として、フィルムの装填が上げられます。ハッセルはフィルム交換にかなりの慣れを必要としますが、ローライはフィルムをゲートに通してスプロールの先端に差し込むだけで確実に巻き上がります。失敗したことはありません。

 

通常、ブローニーフィルムと呼ばれる幅広のフィルムを使う場合、スタートマークというものをガイドに会わせる必要がありますが、ローライは1枚目を自動検知するので必要なし。フィルムの厚みを感知する仕組みです。

 

ローライは手早く装填できます。ハッセルの方は、最初のうちは必ずと言っていいほど失敗します。

 

それからローライのストラップは、ワンタッチで取り外しができるのです。このカニの爪とよばれる方式はワンアクションでカチリとボディにつけられて、ワンアクションで取り外せる。すごいですよね。こんな手の込んだストラップは他にありません。

 

ちなみに僕のプラナー付きの方は、露出計の出っ張りが邪魔だったので修理の時に外してもらって蓋をしています。内蔵露出計は使ったことはありませんが、結構使えるという人もいます。

 

2眼レフローライは、ほぼメンテナンスフリーと言えるのですが、一旦壊れると内部が時計のような複雑さなので、修理のできる人が限られています。

以前は都内にそういう人がいたのですが、やめてしまったので、今は熊本の「中村光機」さんにお願いしています。

この2台も先日オーバーホールしたばかりで絶好調です。