13時、本日はまだお客さんひとり。
来てくれたのは海外のブランドバイクを修理をしている職人さんで、細かい話が噛みあって面白かった。
「初めて10年くらいはマニュアルに書いてある数字を追っていたけれど、ある時から体でわかってきた」と言っていたのだが、これが自分にも経験がある。
あるとき「あっ、焼けた」と思う瞬間があった。今回の展示の最後に掛けてある煙突と雲の写真だ。それまでと同じことをやっていたのに、明らかに違った。以来その感覚は消えることはない。
昨日の夜は「作家の本棚」のイベントだった。冬青若手作家の北桂樹さんが企画して毎月やっている。当月の写真家が自宅の本棚から本を持ってきて皆で見るというものだ。
予定人数より多く集まって、本の量が少なかく感じた。本来は少人数でディスカッション形式になるのだが、人数が多かったので質疑応答形式になった。
僕が持ち込んだ本を皆が読んでいる最中に大判の模造紙に自分の読書遍歴を書き込んでみた。
中学生になって初めて買ったのは北杜夫「船乗りクプクプの冒険」。図書券を入学祝いにもらって生まれて初めて文庫本を買った。中学生だから文庫本を読まないと、と思ったのだ。
でも難しそうなタイトルは避けて読みやすいであろうものを選んだのだ。これが面白くて面白くて。
それから「ドクトルマンボウ航海記」「楡家の人々」まで読んだ。その頃は星新一と筒井康隆のほぼ全シリーズ読んだ記憶がある。
高校生になるともれなく太宰治にはまる。初めて読んだのは「トンテンカン」だったかな。五木寛之の「青春の門」もまだリアリティがあった時代だった。
洋書は翻訳文があまり好きになれず読みはするがはまるまでにはいかなかった。だいたい日本の作家が多かった。
東京に出てきて一番最初に買ったのは田中康夫「なんとなくクリスタル」。あれは今思うと地方出身者にとっての情報誌だったのだ。
村上春樹「風の歌を聞け」以降の3部作は、初めて同時代の小説が出てきたと衝撃的だった。村上龍も好きだった。
僕は今でもこうして文を書き続けているし、雑誌の寄稿や本も出したことがある。何の訓練も受けずに書けたのは読んでいたからだと思う。僕の文章に大きな影響を受けたのは開高健、椎名誠、伊集院静なのだが、一番は東海林さだお。漫画家のエッセイだ。
僕は東海林さだおが書くものがとにかく大好き。こんな書き手になりたいと思わせる唯一の人。
影響力と言えば沢木耕太郎と藤原新也。長い間ここの中から抜けられなかった気がする。あちこちに行っているのも間違いなくこのふたりの影響だろう。
マンガも好きだが、持ってきたのは狩撫麻礼原作の「ボーダー」。本当は他の作品で好きなものが多いのだが本棚にあったのはそれだけだった。初期作品がいいんだよな。これはチャンドラーやハメットのハードボイルドからきている。
写真集で持ち込んだのはザ・ファミリーオブマン、北井一夫、清家富雄、上田義彦、杉本博司、サラムーンなど。それぞれ自分の考え方や意識を変えてくれた人たちだ。
写真集は別だが本は読んだら処分してしまうのでほとんど残っていない。なので何を読んだかはもう覚えていない。
それでも覚えている本は、人生に影響を与えているんだろうな。
来週17日水曜日と再来週18日水曜日は21時までギャラリーを開けてもらうことにしている。そこでも本にまつわる話をしようと思います。
仕事帰りにどうぞお越しください。予約不要です。