黒塗り

今日から再入院。でも3日で帰れる予定。

気が重い。前回手術して以来、毎朝起きるとズーンと胃の辺りが重い。

何かパッと気が晴れることはないか?


自宅から2駅のところに中野フジヤカメラがある。自転車で15分もかからないから、新中野にあるギャラリー冬青に行ったついでなんかにふらっと立ち寄る。

別に何かを買うわけではないのだが、店頭に並ぶカメラを見ていると落ち着くのだ(笑)これはなかなか分かってもらえないだろうな。

先週金曜日も仕事帰りに途中下車してフジヤカメラに。なんとなくライカが気になって2階奥のライカブースへ向かった。

ちょっと前ならM9を目で探していたのだが、近頃は大幅に安くなってきたM2、M3、M4に目がいく。

実はM9はずっと貸してくれる人がいて手元にあるのだ。高価なものだからあんまり使ってないけど。

棚の中に黒光りするものを見つけた。何か神々しいばかりに鈍い光を放っている(大げさだな)。

ライカM2後塗り118000円とプライスタグがついていた。後塗りとは本来シルバー塗装の機種に後から黒に塗り直したものだ

正規の黒塗りのボディは希少性が高く、ボロボロのものでも40万円以上する。シルバーボディなら程度がよくても10万円くらいだからいかに高価かが分かる。

当然黒塗りでもシルバーでも機能は同じ、写りに差があるわけはない。でも不思議とライカと黒塗りはよく似合う。

ショーケースから出して見せてもらうとかなり程度がいい。シャッターを切って巻き上げレバーを回すと、きちんとテンションがかかっている。これはオーバーホールしてあるなと分かる。

10年間ワークショップ内で数々のライカを触ってきたから状態がわかるようになってしまったのだ。

ファインダーにも曇りひとつない。二重像もクリア。これまで見てきた中でも間違いなくトップクラスの見え方。裏蓋の圧板にも擦り傷がない。

想像するに、かなりの好事家が程度極上のM2を選び、シャッターの調整、ファインダーブロックはコーティング再蒸着のオーバーホールをしたのち、黒塗り塗装を発注。完璧なM2を作ったとみえる。

しかしデジタル化の波でM9や、Mモノクロームを購入したんだろうな。フィルムカメラはもういいやとフジヤカメラに売り払ったのではないか、などと夢想する。

おそらくかかった費用は本体10万円、オーバーホール5万円、リペイント7万円といったところ。それが半値。安い。

かといって入院前の物入りで、しかもしばらく仕事ができない時期に買うのはためらわれる。

ま、ちょうど中野の病院に入院するから無事退院したらもう一度考えようとライカを棚に戻した。

しかし、それ以来ずっとM2が気になってしょうがない。あれはこれまで見たライカの中でも極上品だと思えてくる。退院するまで残っているだろうか?

土日はワークショップで動けない、月曜日から入院だから、早くてもフジヤカメラに行けるのは水曜日か。

そんな話を日曜日の午後に2Bに遊びにきていた数人にしていた。すると「もし退院してM2を買いにいってなかったらショックですよねえ。そんなにいいのなら売れちゃうんじゃないですか」。

そう言われるとそんな気になってくる。そこへ「フジヤカメラは夜8時までやってますよ」とダメ押し。

夜7時に2Bを閉めると、その場にいた4人と一緒に中野までタクシーを飛ばした。フジヤカメラの2階に駆け上がるとショーケースの中には果たしてM2黒塗りがまだ残っていた。

手に取り軽くシャッターを切り、ファインダーを覗いて、即購入決定。実に数十年ぶりのM型ライカだ。

家に戻ると初代ズミルックス50mmをボディにつけてみる。黒塗りボディに銀色鏡胴のレンズ。

もちろん空シャッターを切ってみる。指に戻る感触がライカだ(笑)

ベッドサイドにこれを置いておけば、しばしの入院も耐えられそう。単純な性格というのもたまには便利だ。