50歳も過ぎると「ちょっと前の話」が20年前で、「この間の話」は10年前のことになる。やれやれ。
「ちょっと前」、初めて行った海外が25年前のバリ島で1カ月滞在。新婚旅行も22年前のバリ島で3週間。20年前、初めての個展が終わって腑抜けとなり、何をすればいいかわからなくなったときに行ったのもバリ島で、その時撮った写真が元になって最初の写真集ができた。
「この間行ったバリ島」は、もう10年前のことだ。やっぱり写真集を出して腑抜けになったときに行ってきた。都合4回、何かしら節目の時に行っている気がする。
今回は久しぶりに妻と12日間バリ島に出かけた。一緒に台湾やミャンマー、モンゴルに行っているが、その時は友人と連れ立っての旅行だった。二人きりで、何の計画も立てずに海外に行くのは新婚旅行以来になる。
バリまでのエアチケットを探してみると大韓国航空のインチョン経由が安い。直行便が12万円だとすると、インチョン経由はサーチャージ込で7万円。ふたりで10万円違うなら経由便でも問題ない。
ただし、バリ島に着くのが深夜0時で、バリ出国が午前1時。大変かなと思っていたが、日本発がゆっくりで、帰国時夕方には家に戻れるのがかえって使いやすかった。
さて初日、深夜バリに到着。一泊目だけは海沿いの繁華街クタに宿を取っていた。ネットで申し込める最低の価格3500円の宿。とはいえプール付きだった。泳がなかったけどね。
朝起きて朝食を食べると、さてどうしよう?ということになった。帰国までの10日間、何の予定もない。とりあえず街へ出てみることにした。
「この間」行ったときに「ちょっと前の」バリとは大きく様変わりしてることを知ったので、今回はクタがどんなに混雑していようと驚かなかった。
「昔はね、クタ村とレギャン村とは離れていてね、その間は街灯もない闇夜が続く細い道だったんだ。レギャンには安宿が数軒しかなくて、、、」なんて言ってみたところでじいさんの繰り言になるだけ。
このまま山の方のウブドへ行く手もあったが、ウブドの騒がしさはクタと同じようなもの。いっそのこと隣の島、ロンボクへ行ってしまおうということになった。ロンボクは新婚旅行で行ったところでもある。
ロンボク島はバリ島から飛行機で30分くらい。バリとは文化圏が違う。端的に言えばバリはヒンドゥ教で、ロンボクはイスラム教。
南の島を撮ろうと思ったきっかけになったのは、実はバリではなくてロンボクなのだ。3人の少年が浜辺で重なり合う写真はロンボクで撮られている。
ロンボクの空港は以前の場所とは違っていた。聞けば昨年の10月にオープンしたばかりだという。そういえば22年目に来た時に「観光客が多くなるから新しい空港を作る計画がある」と聞いたことを思い出した。
新しい空港は中途半端な場所にあって、北側のメインの町に行くのに1時間半もかかる。とりあえず南側の海町に出ることにした。空港のホテル案内所で宿を取りタクシーを走らせた。
着いた宿は小ぎれいでプールもある。暖かいシャワーも出る。あたり前のようだが、なにせ「ちょっと前に」来たのが22年前。その時は電気も通っていなくて夜はランプの灯りしかなく、水のシャワーが当たり前だった。
宿のレストランにどこか見おぼえがある。記憶をたどっていくと、なんとこのホテルは新婚旅行で泊った安宿だった。あれから22年。ずいぶん立派になったものだ。
町外れにある宿のため、どこに出るのも足が必要だ。以前は頻繁に往来していた馬車ドッカルの姿はない。バイク、スクーターばかり。幼い女の子までスクーターに乗っている。
3人の少年がいたタンジュンアンのビーチに行ってみたい。そこはこれまで見たビーチの中でもトップ3に入る美しさだった。
宿の主人に車を出してくれと頼んだが「車は出払っている。でもスクーターがあるよ。移動する手段はそれしかない」という。実に15年ぶりに二輪に乗るはめになった。しかも妻を後ろに載せてだ。
「ちょっと前」にはオフロードバイクの草レースも出ていたこともある。15年ぶりとはいえ運転に問題はない。浜辺までの30分は気持ちのいいドライブだった。
しかし期待していたタンジュンアンのビーチはどこか薄汚れていて、以前の面影はない。がっかりはしたものの、もしかすると以前もそんなものだったのかもしれないとも思えた。写真を撮る気にもなれず暗くなる前に戻ることにした。
スクーターを借りたときに「坂道で滑るから気をつけなよ」と言われていた。そして言葉通り、急な下り坂道の砂利道で対向車をよけようとしてスリップ。思わず地面に付いた左足は、二人分の体重を支えきれずにグキッと嫌な音をたてた。
バリについてからまだ1日もたっていないのに、左足の付け根ををねんざした。
次の朝、ベッドから降りるのも難儀するほどの痛みが出た。歩けることは歩けるが、ちょっとでも無理な体勢になると飛び上るほど痛い。
残り9日、これじゃどこにも行けない。いったいどうなるんだ?
続く。