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「幼なじみが家を貸したいと言っているんだけど」唐突に知り合いから電話があった。引っ越したいと思っていた僕は妻と一緒に家を見にいくことにした。

その方は両親が住んでいた家が5年間人が住まぬままになっていて、このままでは家がだめになってしまうから住んでくれる人を探しているという。まだ荷物は残したままになっている。

今の所に住んで早いもので10年になる。そんなに長く住むつもりなどなかったのだが、娘の学校の問題で引越しは予想以上に難しかった。学区を変えずに住みたい家を見つけるのは無理があった。

ところが今回の家は娘の通うことになっている高校から歩ける距離にある。それを知り合いが思い出して声をかけてくれたのだ。

築40年以上たっているというので見る前はちょっと不安だったが、家の中は5年間人が住んでいないとは思えないほどきれいだった。壁も床もきちんとしていて、大切に住んでいたことがよくわかる。

一言で言ってしまえば「気がいい。ここに住むイメージが湧いた」。僕らが家を探すときに一番大事にしていることだ。これまでにも条件が揃っている家を何軒か見たが「住んでいる自分を想像できない」という理由で断ってきた。

使える家具は使っても構わないと言われ、古い家具が大好きな妻は柳行李や桐の箪笥に小躍りしていた。

家の手入れや荷物の片付けにしばらく時間がかかるということだったが、僕らはその場で「住まわせてください」とお願いした。

江古田に住んで25年。初めて生活圏が江古田から離れる。でも新しい生活が始まるのを楽しめる家が見つかった。