日大芸術学部写真学科

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久しぶりに江古田へ行ってきました。 この時期、日大芸術家学部では「芸祭」をやっています。芸術系の大学では文化祭とは言わず「芸祭」と言っています。期間中、学校を開放して作品展示が行われます。壮大なグループ展のようなものですが、これが毎回結構面白い。

 場所は西武線江古田駅から2分。僕らがいた頃は江古田校舎だけだったのですが、80年後半に所沢校舎ができて、1、2年は所沢、3、4年は江古田とわかれていました。 それが今年から所沢にあった校舎をたたんで全て江古田に戻したそうです。どこの大学も都心回帰の流れがあるみたいで。

 まずは教職員棟に行って、同級生の先生のところへ。同級生の西垣さんが学科長ですからねえ。時代を感じてしまいます。 西垣先生に『じゃない写真』を渡したら彼女の新刊をいただきました。 西垣仁美、藤原成一著『50冊で学ぶ写真表現入門』。なんと日本カメラ社から出ています。

https://www.amazon.co.jp/50冊で学ぶ写真表現入門-西垣-仁美/dp/4817921706/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&keywords=50冊で学ぶ写真表現入門&qid=1572862442&sr=8-1

 この本は写真集ではなく、ロラン・バルトとかスーザン・ソンダク、シャーロット・コットンなどの、読んでいて頭がこんがらかる評論集の解説本、というかガイドです。 めちゃくちゃありがたい。この本を参考に原本を読み込めば、世界が大きく変わります.

 アカデミックな仕事だな。さすが。

 同じく同級生の服部先生に、日芸の暗室を見せていただきました。「東洋一の暗室」ということでしたが、間違いなく世界一。世界の写真学校の潮流は脱暗室。こんな立派な暗室は、ここ以外にはありえません。

 大暗室は25名がいっせいに作業できるスペースがあり、しかも伸ばし機は電動式のベセラー。シノゴまで伸ばせます。 その他フィルム暗室や個人暗室もあります。

 しかし残念ながらカラー暗室は今季で終了だそうです。業務用自動現像機のメンテナンスができなくなったのが理由。 印画紙は供給されているのに機械はもうどこも作ってない。消耗部品は在庫切れの状態です。

 暗室だけではなく、大型スタジオや小スタジオもあり、撮影機材にはフェーズ1が用意され、大型ストロボはブロンカラー。とにかく最高のものであふれている。その設備に正直驚きました。 服部先生曰く「学生はさっぱり理解してませんけどね」。まあそういうものです。

 今、写真学科には一学年106名の学生がいて、半分はAO入試で入ってくるそうです。僕らの時代と定員は変わっていませんね。 今でも1,2年は写真基礎コース、3,4年がゼミになっています。

 写真基礎、通称「写基礎」では暗室実習が必須科目になっていて、1年生は35ミリ、2年生はシノゴと呼ばれる大型カメラを使ってフィルム撮影実習をします。 昔悩まされたシノゴのカメラを使っての新聞複写は今もやっているそうで、フィルム撮影のカリキュラムはほとんど変わっていません。

 でも大半の授業はデジタルなわけです。やはり映像実習も用意されていて人気のコーズになっているようです。レタッチの授業も、もっと充実させたいと言っていました。

 写真の対象になるのは身近な友人といった、プライベートなものが多いそうです。まあ、これは理解できるかな。

 就職はここ最近とても良いそうで、大手新聞社、通信社、出版社の他に、昔と違ってレタッチャーや、ブライダル撮影の会社というのもあり、中には映像制作会社に就職する学生もいるそうです。 加納満さんんとの対談でも言っていますが、僕らの時代は広告関係が花形でした。 日芸はアーティストになるより、昔から職業カメラマンになるものがほとんどです。

 日大芸術学部には大学院もあって、芸術学修士MFAの資格を取ることができます。このMFAの資格は欧米ではMBA(経営学修士)と同じくらいの価値を持つと言われていて、ビジネスマンが注目している学位です。 全体で40名近くが大学院で学んでいるそうですが、その8割以上が留学生。そして大半が中国。

 さて、お目当ての学生の作品を見ていきます。最近は壁を使っての展示よりも、ブック制作での参加が多いそうです。ブックとはファイルに写真を入れて1冊で構成するタイプのものでポートフォリオとも呼ばれます、 「キヤノン新世紀」がブックでのエントリーというのも関係しているのかな。というかブックというものが当たり前になっているんでしょうね。

 見ていて上手いなと思わせる写真はけっこうあります。でも上手い下手で語るなら当然我々のほうが経験が多いから上手い。でも上手いんじゃなくて「こりゃすごい」というものが毎年必ずあります。

 通路や大スタジオでの展示を見ていくと、いくつかひっかかる作品がありました。上手い下手を超えようとするアプローチのものに惹かれます。

 2階の奥の小部屋を覗いてみると、不思議な作品が目にはいりました。なんだかよくわからない、なんとも説明のつきづらい作品です。 でもものすごくいい。不思議なエネルギーがある。でもこれってカメラもレンズも印画紙も、何も写真的要素のものを使っていないようなんです。でも不思議と写真なんだよな。

 制作過程の動画(おそらく4K)を見ると木枠に紙をちぎって入れてを繰り返し、まるで紙すきのような行為をしています。からみあった紙を慣らしたりなぞったりしています。

 作者がいたので聞いてみました。「これって写真?」 作者の松原茉莉さんは「写真のことをずっと考えた結果こうなりました」 たしかに写真的要素は微塵もないけど、僕も今回の展示の中でもっとも写真的だと思えました。

 松原さんが写真を追求しようとしてできあがったのなら、これは写真でしょう。 やっぱり才能ある人はいるね。彼女の作品を見られてよかった。

 1階では「卒業生による木村伊兵衛賞土門拳賞記念作品展」と題して藤岡亜弥さんと高橋智史さんの展示もありました。日芸出身で活躍している写真家は多いです。

 先日見た「キヤノン新世紀」もそうだけど、日本の写真は大きく変わりつつあるね。「こんなの写真じゃない」というのがどんどん出てきそうです。