その後次々と質問を畳み掛けたが、やはりプライベートは垣間見えない。するりするりとかわされる。それでも「今まで誰にも言ったことはないんだけれど」と写真家林忠彦の助手時代や、フリーなりたてのファッションカメラマン時代の話をしてくれた。そこで感じた商業写真への限界が清家さんをイギリスに向かわせたという道筋がわかった。当時の日本のカメラマンのレベルでは満足せず、もっと高みを見たいと感じていたと言っていた。
前半45分でもうすでにぐったりするほど神経を使った。後半はZOIシリーズにまつわる話とライカレンズの話をした。ZOIシリーズに使われた印画紙は当初ドイツ製のもので、それがなくなりそれと同じテイストを持っていたコダックエクタルアを使うようになったということだった。サイズも今よりずっと大きめの12×16インチサイズ。是非そのプリントを見てみたいと清家さんに切望した。
一通りの話が終わると、清家さんが逆に僕に質問をぶつけてきた。「近頃絵を作るなという話を良く聞くがそれについてどう思うか」ということだった。
僕は「写真は撮りにいかなければ写らないと考えている。漫然とシャッターを押してはいない。おそらくそれは絵画の構図を写真に持ち込むなという意味ではないか」と答えた。
その後構図の話になり、アプローチは違えど根っこは一緒だと感じる部分が多かった。また昨年行われたデジタルプリントの写真展についての話から銀塩についてのこだわりを語ってくれた。
今回のトークショーは作家を立てるような立場ではなく、ファンとして、写真家の一人として世界的な成功を収めている数少ない日本人写真家清家冨夫に不躾すぎる質問をぶつけてみた。
終了後聞いてくれた観客に「渡部さんの清家さんへ突っ込みに、聞いていてハラハラしました」と言われたから自分の役目は果たしたように思う。
最後に清家さんに握手をもとめると、清家さんの手は汗でじっとりと濡れていた。