「 針箱 」っていいタイトルだな

江古田の駅前が再開発とやらで古くからの店が次々と閉じている。名物「キッチン洋包丁」はついに営業を終了した。「パクチャン家」ももうない。

がらんどうになった店は突然廃墟のようになる。建物は住むことをやめると途端にすさんでしまう。引越しの時荷物が全てなくなった部屋に立つと、もはや部屋ではなくなってしまったことを感じる。

川鍋祥子写真展「 針箱 」
 
日時:2010/8/20(金)〜8/29(日)
   12:00〜19:00(休館日なし)
場所:UPフィールドギャラリー(http://www.upfield-gallery.jp/
〒101-0062 東京都千代田区三崎町3-10-5 原島第三ビル304
  TEL/FAX 03-3265-0320

彼女は祖母が住んでいた家を撮り続け、祖母が住んでいる頃から亡くなり家が取り壊されるまで時間をかけて撮っている。今回の展示は祖母が入院し、人が住まなくなってしまった家の様子をまとめている。ローライで撮られたカラー作品だ。

写真にはまだ人が住んでいる気配が色濃く残っている。が、主はもう帰ってこない。「 針箱 」ももう使われることはない。

僕は写真を見るときにあえてバックグラウンドの要素は外して見る。目の前のものだけを見ることにしている。

でもこの作品は彼女が撮り始めた頃から見てしまっているのでなかなか断ち切れない。余分な感情が見ることを邪魔する。

「せつないなあ」と見ていてつぶやいたら横にいた友人が「え、なんで?」と驚いていた。「そりゃ僕が田舎もんだからだよ」と答えるしかなかった。

「せつない」といのはこの写真にはふさわしくないのかもしれない。でもその感情が押し寄せてきてしまったのだから仕方がない。

家がなくなって写真がのこった。