娘が働いているお店にお昼を食べに行った。4月から働いているいるところがどういうところか一度見てみたかったからだ。娘の都合がいい日を選んで僕ら夫婦と三人で出かけた。
見晴らしのいい席で料理をいただいて、さて会計してもらおうとお店の人を呼ぼうとした。三人で結構食べたから15000円くらいいってしまうかなという腹づもりをしていた。
すると娘が「あっ、ここはもう払っといたから」
その瞬間、背筋がヒヤッとした。娘が気をきかせてスマートに払ってくれたことを喜ぶというより、思いがけないその行動に動揺したのだ。
「ああ、そういう歳なんだ」
働いているというのはもちろん認識しているし、毎日遅くまで大変だなとも思っていた。でもまさか決して安くないご飯代を気づかれないように先に払うという芸当ができるような歳になったとは。
その瞬間、確実に娘が離れていった気がした。もはや父は頼れる存在ではなくなってしまった、その役割が終わってしまった。その思いが背筋に冷たい汗をかかせたのだ。
大人になった娘を喜ぶ気持ちと、老いていくことを実感した複雑な気持ちだった。