アサリのパスタとリゾット

送られてきた掲載誌のなかに「東京人」があった。今月号ではサントリーハイボールの記事広告の写真を撮っている。

一番最初に「東京人」を見たのはもう20年も前、当時から写真を大胆に扱っていて、撮影している写真家も錚々たる人ばかり。高梨豊が巻頭ページを撮っていた。

ある時海外に行くときに、写真がよくて読み物が豊富でという理由で購入した。特集企画は落語だった。

そのときの巻頭の扉のページは今でも鮮明に覚えている。演芸場の一番奥からお客さんの頭越しに引き気味で落語家を撮っている。誰もが撮りそうな構図だ。ところが露出とピントが高座の上の提灯にだけ合っている。そのほかはお客はおろか、演者の顔も薄暗くぼんやりとしていて分からない。提灯に書いてある落語家のカンテイ文字だけがはっきり見える。ものすごい臨場感。失敗カットと紙一重の露出とピントのコントロール。写真家は飯田安国だった。

写真家が凄いのは分かる。が、それよりもその写真を見開きで使おうと思ったデザイナー、それを許す編集部の度量に驚いた。

帰国すると、すぐに編集部に連絡を取り、会いに行った。運良く新しく始まる連載の写真家を探していたときで東京人で仕事をすることになった。その後特集ページを含め、一番長く付き合いのある編集部になっている。

実はサイトにある「TOKYO LAND SCAPE」は東京人の企画のために始めたものだ。見開きページでどうやって東京を見せていくか考えた末の方法だった。

今月号は23区の特集。誰が撮っているかクレジットを確認するのが雑誌を見るときの習慣になっている。巻頭のページには渡邊茂樹とあった。

思わず妻に向かって「渡邊が出てるよ!」と声を上げてしまった。彼は9年前、東京人の僕の写真を見てアシスタントになりたいと言ってきて、2年間僕の仕事を手伝ってくれていた。その後フリーになってから念願の東京人の仕事をするようになって近頃は巻頭もまかされるようになってきた。

以前は瀬戸正人、ホンマタカシ鈴木理策佐内正史HIROMIX木村伊兵衛賞がずらりと撮影していた。そんなに発行部数の多くない雑誌なのに「東京人で仕事してます」はこの業界の名刺代わりになる。

なんだか自分の写真よりもしげしげと渡邊の写真を見てしまった。嬉しいような悔しいような、でも元アシスタントが活躍してくれるのはかなり嬉しいもんだ。