上からどうぞ。

一方北井さんのビューイングはあの静謐な写真からこれまた想像もできないようなテンポの良い口調だった。しばしば脱線しながら2時間半ずっと話は続く。ビューイングというよりトークショーのようだった。

北井さんは「歩く昭和写真史」だと常々思っている。30年前、僕が写真を始めた高校生のころ北井さんは第1回木村伊平衛賞を受賞したばかりの大スターだったのだ。

始めて手に入れたライカは出版社の経費で買ったものだと教えてくれた。凄い時代だ。

北井さんは20歳の時に日芸在学中でありながら自費で写真集を出している。「抵抗」と題された学生運動を撮った写真は、ネガに派手な傷が入り、フィルムの劣化によるムラがあったり、ザラザラのハードトーンで何が写っているのかさえ分からないものがある。

やってはいけないとされた見本のような写真ばかりだ。当時はまったく無視されたというが、森山大道より数年前に「アレ、ブレ、ボケ」を形にしていたのだ。そして40年後そのシリーズは今海外で大注目を浴び、大きな話が具体的な形になるようだ。

そして「抵抗」から「三里塚」とつながり「村へ」そして今回冬青で展示している「ドイツ表現派」へと繋がる。

系列で見て、話を聞いていくといくと、なぜそうなったか腑に落ちてくる。ビューイングの面白さのひとつに時系列での作品鑑賞がある。その作品の生まれた前後を見ることで理解できることが多い。これは大がかりな回顧展以外、普通の写真展にはないことだ。しかも本人の説明付き。疑問に思ったことはその場で質問できる。

ロッキングオン』の渋谷陽一氏は「100回の飲みより一度のインタビュー」と言っているがビューイングはそれに近い行為かもしれない。