10月24日木曜日です。本の書店流通の話。

https://m.youtube.com/watch?v=Qs-_cYy5dwg

 

10月24日木曜日です。なんだかブログのほうが見てくれる人が多いみたいです。

 

『じゃない写真』を今週末10月28日土曜日まで限定販売します。正式な発売は来年早々です。出版社の倉庫に今日納品なので、発送は来週になります。概要欄見てください。ベイスというプラットフォームから申し込めて銀行振り込みとクレジットカード払いに対応しています。

 

今日はあまり馴染みがないかもしれませんが、本の書店流通についてお話しします。

 今まで5冊の写真集と5冊の書籍を出しました。

2000年、最初に出した写真集『午後の最後の日射』(ごごのさいごのひざし)は自費出版です。その時に初めて流通ということに直面しました。

写真集を出したくても、どこの出版社も相手にしてくれないので、四谷三丁目にあった、写真関連の本屋さんと、自費出版をサポートしていたmole (モール)で出すことにしました。

そこなら書店流通もできたし、少なくともそこの本屋さんで置いてもらえるかなと思って。でも出版後すぐにモールは倒産。倉庫にあった在庫は500冊以上は自分の事務所に引き取ることに。

写真集に囲まれて途方にくれました。捨てたくなります。 本屋さんで売れないから、残りは手売りしかないわけです。そこで自分のサイトを作ったのがネットを始めたきっかけです。

写真集は作るよりも売るほうが何倍も大変です。やる気とお金が用意できれば本を作ることはできます。でもすぐに「これ、どうやって売ればいいんだ?」ということになるわけです。

自費出版をしてくれるところは、本は作ってくれても、売ってはくれない。一応自社のサイトでは紹介してくれるけど、そこから売れるようなことはないです。

ちょっと前なら本を買うところといえば、本屋さんでした。「でした」というのは、今ではAmazonがあるから。いつからでしょうね、なんでもかんでもAmazonで買うようになったのは。

さて、本屋さんに置いてもらうにはどうしたらいいかというと、基本的には出版社から取次と呼ばれる本の卸業者を通して、全国の書店に配本してもらいます。出版社が直接書店と取引しているわけではないんです。最大手はトーハンと日販。名前を聞いたことがある人もいるでしょう。そのほかにも取次は数社あります。

 取次は、出版社から本を受け取ると、まず定価の60%から70%の代金を出版社に支払います。

取次を通して本は本屋さんに送られ、一定期間預かってもらいます。売れたら本屋さんは手数料として定価の25%程度を受け取り、残りを取次に渡します。

預かってもらうということは、本屋さんは本を買いとっていないので、いつでも返品できることになります。一応期間は決められていますが、あまり機能していないという話もあります。

返品された本は、取次を通して出版社に返されます。そして本屋さんから注文があると、再び取次を通して書店に送られます。通常7回ほどいったりきたりするそうです。ある意味中古品。

本屋さんは、セレクトショップのように見えて、委託販売業者なんです。そのため新刊本の値段は全国どこで買っても同じです。勝手にディスカウントしてはいけません。古書店は買取制なので書店が価格を自由に決めることができます。

 

本の価格は出版社が決めて、それを守らなければならない。家電ではメーカーが小売価格を押しつけることができないように、オープンプライス制が定着していて、小売店が勝手に値段をつけてもいいけど、本は出版社が決めた値段のみで売られるから全国統一価格。これって実は独占禁止法違反。

 

これは日本独自の本の流通制度で、再販売価格維持制度といいます。通常の品物と違って、古くなっても本は定価どおりに売られます。再販売価格維持制は、通常再販制度といいます。独占禁止法の例外により、書籍・雑誌・新聞などについては価格拘束が認められているのです。

自由な競争ができないなど、その是非が何度も問われていますが、委託販売のため売れる見込みの少ない本でも流通させることができるのがメリット。

欧米の書店はすべて買い取り制ですので、売れる本しか扱わない。買いとっても売れなさそうだったら、ワゴンに積んで叩き売りのようなこともします。欧米では売れない本は流通できない。だから知名度の低い写真家が本を出しても本屋さんで流通させるのはほとんど無理。売れそうにもない、値段が高い写真集は本屋さんが敬遠しがちです。じゃあ、彼らがどこから出版するかというと、その多くがギャラリーだったりします。

しかし日本では再販制度があったおかげで、1960年代から多くの写真集が流通してきました。流通できることで、写真集を作ろうと思う人が多かったわけです。本屋さんに自分の本が並んでいるのはかなり嬉しいですから。

これは世界的にみて特異な現象で、日本独自の写真集文化が生まれた土壌になっていると思います。再販制度は問題があると言われていますが、ある一定の効果があったのもたしか。でもこれからは大きく変わると言われています、。

 

最近では本屋さんに頼らない、ネットを通じてピンポイントに販売する形が増えてきました。ほとんどの写真集の制作部数は1000部くらい、多くても1500部。少ないと500部という場合もあります。そうなると、ネット販売で売り切ってしまうこともできる。写真集は言語の壁を超えて世界で売ることもできますしね。実際海外マーケットのみを考えている日本の出版社もあるくらいです。

僕が写真集を出している冬青社は、書店流通にこだわっています。たしかに書店に置いてもらうことで、大きな広がりを持つことがあります。僕の写真集だと『da,bastia』(ダガシタ)がそうでした。書店注文が毎月コンスタントにあり、あっというまにすべて売り切れました。

ただ、書店流通の最大のデメリットだと思っているのは、カバー後ろにISBNコードを印刷しなければならないことです。このISBNコードというのは、流通管理のため必要なもので、これがないと書店では扱ってもらえないのです。

 

しかしこれがブックデザインを著しく壊してしまう。シュリンクといってビニールカバーにくるんでISBNコードのシールを貼り付けるというのもあるけど、そうすると中身が見えない。

それが嫌で書店流通させないという選択をする出版社さえあります。ブックデザインが大事な写真集にとって、ISBNコードの印刷は無視できないほど大きな問題。僕もそれを入れたくなくて『demain』(デュマン)では一部、特装本を作ってISBNコードをいれませんでした。

 

とにかく売るって大変。毎回本を作るたびに思います。