今週末で終わってしまうというので、横浜トリエンナーレに行ってきた。通称ヨコトリ。3年に一度開かれる国内最大級の現代アートフェスティバルだ。
みなとみらい駅で下車して横浜美術館を臨むと壁全体に救命ボートが貼り付けられている。馴染みすぎていて窓枠にしか見えない。エントランスには救命胴衣が塔のように垂直に積み重ねられていた。
これはシリア難民が実際に使っていたもので、中国における最も有名なアーティストと言っていい、アイ・ウェィウェィの作品《安全な通行》(2016)と《Reframe》(2016)だ。
3箇所の主会場と2箇所のサテライト会場をパックした入場料は、妻とふたりだと5000円近くする。とはいえ横浜美術館だけではもったいないので妻と協議の結果パックチケットを買おうということになった。
そうやって売り場近くでグズグズしていたら、見知らぬ女性がら「招待券2枚余ってるいるので使ってください」と声をかけられた。
今日はいい日のようだ。ありがたく頂戴する。
会場に入るとインドネシアのジョコ・アヴィアントによる《善と悪の境界はひどく縮れている》が目に飛び込む。竹で編まれたしめ縄をオマージュした巨大なオブジェだ。タイトルから「禍福はあざなえる縄の如し」ということわざを思い出す。
本展に際してディレクターは「小さな個展の集合体で、テーマ分けなどはしていません。展示の間を回り、流動性や多面性、世界の複雑さを感じてほしい」と語っている。
大きなテーマは「孤立」と「接続」、グローバル化が生み出す新たな孤立の出現だ。
非常に強いメッセージ性を持つものばかりで、ひとつひとつ消化しようと試みると疲弊してくる。次第に機嫌が悪くなるのだ。
その中で畠山直哉の写真の大きな展示があって救われるようだった。北フランスと陸前高田の写真だが、前者の方が良かった。まあ比べるものではないのだが。いい写真だなあと思う。
僕は視力に問題があって暗いところでは細かな文字が読めないので展示のテキストはほとんど読まない。音声ガイドを使わないと背景が理解できないのだが、今回はあえて使わずに見てみた。
そういう中でも畠山直哉の写真は入ってくる。もちろん彼の作品を見続けているからだろう。
横浜美術館から赤煉瓦倉庫へ。こっちの方がなんかわからないが面白い。特にChim↑Pomの発案の福島県の原発事故による帰還困難区域の内外で展開されているプロジェクト「Don’t Follow the Wind」がいい。
防護服をつけて帰還困難区域に入り、作品を協力者の家々に設置していく。現在では鑑賞不可能。いつ見ることができるかわからない展覧会だ。その様子を360度VR動画で紹介していく。色々な仕掛けが複層的に組み合わされている。
そこから徒歩でBANKアートへ。日産アートアワードを見に行く。グランプリを受賞したのは藤井光の《日本人を演じる》という映像作品。この話が今通っている東大の講座で出ていたので気になっていた。
このグランプリ、映像作品なのだが映像の素晴らしさに与えられたのではなく、ワークショップの記録映像なのだ。
とても引きこまれる展示方法だった。たしかにグランプリ取るだろうな。
ファイナリスト4名の展示も行われているのだが、その中で石川竜一の沖縄の写真作品が他の候補者を圧倒していた。この人こんなに上手かったのかと驚いた。
黄金町まで足を伸ばして見て回ったが、やっぱり興味を引くのは写真作品。
横浜から本郷三丁目へ向かい東大の講座へ。キュレーションの講義が実践的で面白かった。「空間のない展覧会」の企画。
朝から晩まで現代アートの一日だった。