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翌日撮影のために車で移動すると、昨日見えなかった街が道の両端に見えた。どうみてもIT企業がこぞって進出しているというイメージではない。イメージしていた高層ビルなどどこにも見えない。あるのは今まで写真や映像で見ていたとおりのインドそのもの。

食事はやっぱりカレー。日本で食べているインドレストランの味。ベジタブルカレーの種類が多い。日本で食べるのと決定的に違うのは「ナン」の味。小麦が甘くておいしいのだ。日本ではお米を選ぶが、インドではナンを選んでしまう。バンガロールで作られたワインを注文してみた。びっくりするほどおいしいではないか。お土産に1本買ってしまったほどだ。お値段1500円の割にはおそろしくコストパフォーマンスが高い。

二日目に行ったバンガロール市内のマーケットはすさまじかった。撮影の途中であったため、30分しかいることはできなかったが、これまで数多く見てきたマーケットの中でも一番だと思える。

よく「混沌」とか「カオス」という言葉を安直に使っているのを見かけるが、このマーケットのこの光景に使うのが正しいのではないか、それほどの喧騒だ。

上海城内のマーケットもすごかったが、インドはそんなもんじゃない。同行した海外経験が豊富なノンフィクションライターIさんが「中東が一番かと思っていたがインドのほうが何十倍もすごい」とうなっていた。

狭い道一杯に人が溢れ、両脇に店がびっしりと並び、その前に露店が出て、さらに道端にはシートをひいた物売り。三輪オートリキシャが人や物をのせて人の群れに突っ込んでくる。ローライを覗いているだけでファインダーに人が飛び込んでくる。あとはただシャッターを押すだけ。

「渡部さん恍惚の表情をしてたよ」。たしかにこんなに興奮して撮影したのは久しぶり。鬼海弘雄の写真集INDIA」の帯には「インドは魂を奪う」とあるが、意味がようやく分かった気がする。

今日はシンガポールへ戻ってきた。移動日で撮影はなし。これから街にでてみようと思っている。