コラムvol85「デジタルプリント」

暗室で今月号の「コマーシャルフォト」を見ながら、デジタルで出力するモノクロプリントというのを試してみた。フラッドベッドスキャナーのエプソン9700F を使い、シノゴのネガを読み込み、オリンパスとキャノンのプリンターに出力する。

本の通りにやってみたら驚くほどきれいなモノクロプリントができた。こりゃ伸ばし機はいらないわ。印刷にするならこっちのほうがいい。ただそれが鑑賞に耐えうるか?というと疑問が残る。

エプソンがやっている新宿のギャラリー「エプサイト」には、有名作家のデジタルで出力されたポートフォリオがいつでも観覧できるように置いてある。しかし、その作品群を見て、ただの一度も感動したことはない。最高レベルの入出力機をつかってもなお、オリジナルプリントのもつオーラのようなものは出せないということか。唯一素晴らしかったと言えるのは「やなぎみわ」の「エレベーターガール」だけだ。はじめからデジタル処理を考えての作品だったからかもしれない。

よくオーディオ好きの間で交わされる話題の一つに「CDはレコードに比べて音域が少ない」というのがある。デジタルではデータ量を少なくするため人間の可聴能力以上の音域を意図的にカットしてある。しかし、どうもデータ上は決して聞こえないはずの音を人間は感じているらしい。同じ音源でもCDとレコードでは、ハイエンドな機器で再生すると明らかに違いがわかると言うのだ。これはそのままデジタル写真と銀塩写真の関係にも当てはまる気がする。

ただデジタルの進歩の速さは尋常ではない。昨年書いたデジタルについての「コラム」を読んでいると、とても1年前の発言とは思えないほど古臭いことを言っている。だから現時点でそうであっても、絶対的なことがいえないのがデジタルだ。

これから写真を始める写真学生などは、最初からデジタルの環境で育っていくことになる。そうなると僕らが考えもつかない発想で、あっと驚くような使いこなしをしていくだろう。あと5年もすればそういった写真家が増えてくる。その時彼らがどういうものを生み出していくのか楽しみだ。

写真科の先生の役割はこれから大変になる。いままでやって来たことだけの経験値だけでは授業を進めていけない。「モノクロが写真の基本である」というのは通じなくなるだろう。先生にこそ勉強が必要な時代になってきた。