「伝える」と「残す」

朝 大豆シリアルヨーグルト
昼 ロイヤルホストのオムライス
夜 味噌ラーメン、餃子、ビール

ひさしぶりに撮影仕事で松本市へ。来年度に、同市近郊を撮影したもので小さな写真集を作るために度々訪れている。SNSをどう活用するかという時代に、紙で作る意味と意義を市の担当者が信念として持っていたことで企画が通った。実は紙であること、写真であることの強みを、今やっている別の仕事でも担当者が強く訴えて、写真集という形にしようとしている。
両者とも写真の専門家ではない。これは偶然じゃなくて、そう考えている人が増えてきているんじゃないだろうか。SNSに「伝える力」があるのは自明だが、一方で紙には「残す力」がある。企業にも行政にも伝えると残すはどちらも同じくらい重要性があるはず。残すという点で写真というものの存在が際立ってくる。写真は動画と違ってデバイスがいらない。保存も管理も容易。動画の時代にあっても、まだ写真の有用性は十分にある。長年写真集を見続け、作ってきた経験は、今後の自分を助けるスキルになるかもしれないと、最近思えてきた。

<2006年11月3日の日記から>
井の頭公園の休日
井の頭公園で、写真を売って生計を立てている写真家がいるという話は以前から聞いていた。その作家は昨年度日本写真協会新人賞と写真の会賞をダブル受賞しているという。国内作家のオリジナルプリント相場というものがあるとすれば3万から20万円というところだろうか。決して安いものではない。1枚の写真を購入するとなるとある程度の決心が必要となる。
ところが井の頭公園で売っている値段と言うのが1枚「1000円」なのだ。1万円ではない、千円だ。その作家の名前は風間健介という。夕張の炭鉱を撮った写真集は知っていた。骨太ながっしりした写真を撮る人だという印象を持った。写真賞を受賞しているのにかかわらず、1枚1000円で写真を販売して生計を立てている不思議さに、前々から井の頭公園に行ってみたかったのが今日実現した。休日の公園は天気がいいのもあって、驚くほどの人出だった。公園入口の焼き鳥伊勢屋は長蛇の列。昔は閑散としていたものだったのに。僕たちは総勢8名ほど連れ立って風間さんを探しに、伊勢屋を背にして池を左回りに歩いていった。道沿いにはフリーマーケットさながらいろいろな物を売っていたり、ところどころで演奏をしている。結構楽しい気分だ。ふと横を見るとシートを広げて写真を並べている人がいた。風間さんだ。思わず通り過ぎてしまうところだった挨拶もそこそこ写真を物色する。RCペーパーで焼かれたものの中には、バライタ印画紙のものもある。思わず「ここにあるもの全部千円なんですか?」と聞いてしまった。並べてあるものもケースに入れてあるものもRCバライタ問わず、モノクロは全部1000円。カラーは2000円だった。炭鉱のバライタプリントを2枚、海が写っているものを2枚選んで購入した。4枚買っても4000円だ。一緒に行った人たちもそれぞれ好きな写真を選んで買っていた。風間さんに聞いたら一日5枚ほど売れるということだった。ただしニコンやキヤノンをぶら下げているおじさんは見向きもしないという。なんとなくわかるような気がする。1時間ほどいろいろな話を伺った。でも記憶に残ったのは写真の話ではなくて「焼酎を1日1リットル飲む。身体のためを考えてウコンで割っている。毎日5時間飲む。昔は1ヶ月で一升瓶20本の焼酎を飲んでいた」という武勇伝。今年46歳というから僕と同年代だ。風間さんは北海道の夕張に20年近く住んでいた。数年前北海道に行った知り合いは風間さんの自宅ギャラリーを訪れている。風間さんの家の窓にはガラスがなくビニールがヒラヒラと貼られていたそうだ。冬でもそのまま。夕張の冬はマイナス20度になるはず。自分のことを「体が弱い」と言っている風間さんだが、そんな部屋に住めるのなら十分丈夫なような気がするが…焼酎を飲む理由も寒さ対策だったのだろうな。伝説になるであろう井の頭公園の写真販売を堪能し、帰り道「狼の毛で作った筆」を買い、吉祥寺駅前のハモニカ横町で飲んで帰った。かなり充実した休日になった。