2019年12月3日火曜日。年末感が漂ってきましたね。
年4回発行の写真雑誌『IMA』が届きました。写真雑誌なのですが、なんとカメラメーカーの広告が入っていない。「シャネル」とか「ヴァンクリフ&アーペル」といった高級ブランドの広告のみ。
以前はキヤノンが広告を出していましたが、昨年から見かけなくなりました。つまりカメラメーカーにとって、メリットのない雑誌ということなんでしょう。写真雑誌だけど、これを見た人はカメラを買わない。
創刊は2012年です。『IMA』が出るまでは、海外の写真の動向を知る手だてがほとんどありませんでした。ネットはすでに普及していましたが、日本語で書かれたものはなく、知るためには直接海外に行く必要がありました。
それが国内外の新しい写真情報を掲載してくれる雑誌ができたことで、とても助かっています。『IMA』を見れば、とりあえず現在の写真のニュースがわかる。既存の写真雑誌では絶対紹介されないであろう、国内の新しい作家の作品に触れることができる。
僕は創刊から定期購読しています。『IMA』という雑誌のデザイン面のすごさは、作家ごとに記事ごとに印刷の紙質を変えているところです。これはオランダの写真美術館が出している『Foam』と同じです。本のサイズも同じなので、何かしら創刊時に影響を受けているのだと思います。
さて、2019年冬号をちょっと見てみましょう。始まりは写真界隈のニュースが10ページほど続きます。面白かったのは題府基之さんの写真集『Holly Onion』の紹介記事。ただただ、タマネギを剥くお母さんをフィルム1本分撮影して164ページに構成したものです。どういった本になっているのか気になります。1冊の写真集を作るには通常何年もかかるものですが、これの撮影時間は30秒くらいだそうです。
今回の特集はアメリカの写真家「アレック・ソス」。実は2012年発売の2号目にも18ページほど特集されていますが、今回は誌面の3分の2を使っています。作品もインタビューも満載で「ALL ABOUT ALEX・SOTH」という感じです。
アレック・ソスという写真家はご存じでしょうか。現在世界でもっとも注目されている写真家です。1969年ミネソタ生まれですから、今年で50歳。
彼は学生時代に彫刻を専攻していましたが、授業の中でジョエル・スタンフェルドの写真の講義を受け、写真を本格的に始めます。
2003年に「レビュー・サンタフェ」でサンタフェ写真賞を受賞すると、翌年には初の写真集『Sleepig by the Mississippi』を発売、これによって世界中から注目を集めます。
この作品はエイトバイテンの大型カメラを使ったネガカラープリント。車で移動をかさねて、撮影することから「On the rord」系の写真家だと言われています。ここでは「On the rord」とは何かを説明しませんが、アメリカ写真を理解する上で、このキーワードはとても重要になります。
僕は2015年にソスのトークショーを聞きに行ったことがあり、彼のドキュメンタリー映画「SOMEWHERE TO DISAPPEAR」も
見に行きました。
その中でソスは初期代表作『Sleepig by the Mississippi』について、こんなことを語っていた。
まず旅に出てみようと思った
場所はミシシッピ川沿いに決めた
撮影する対象はあらかじめ決めていない
ポートレートは顔を見て決める
写真を始めた頃はポートレートを撮影するのがとても怖かった
友人や彼女を撮影することで少しづつ慣れていった
写真を理解するには最低で10年かかる
筋肉に記憶させるんだ
写真集を編集する上でもっとも大事にしているのは写真と写真のコネクション
ただし、それが相手に伝わることはまったく期待していない
なぜなら国や社会、言語が違えば捉え方は大きくかわるから
ただし、自分の頭の中には必然ともいえるつながりが存在している
実は『Sleepig by the Mississippi』には飛行機という軸がある
構成は断片的で、最低限の情報しか与えない
そのほか彼の言葉には明言が多い。例えば、こんな言葉。
写真の意味は見る人によって変わってくる。
世の中の人が自分と同じように理解できるとは思っていない。
写真は場所、方法によって意味が変わる。
写真家は意味をコントロールすることはできない。
プロジェクトごとに機材を変える。
作品によってはデジタルカメラも使う。
若い人から「どうやったら世界で注目される写真家になれますか?」と聞かれるけど、まずは作品作りのほうが大事だと言っている。
何かしらいつも撮っている。
僕は『Sleepig by the Mississippi』も好きだけど、モノクロで撮った「song book」が好きです。
今回の『IMA』のインタビューはかなり充実しています。以前動画内で紹介したトモ・コスガさんもソス往復書簡のインタビューをしています。
『IMA』は唯一現代写真の動向を伝えてくれる雑誌なので、なんとか頑張ってほしいものです。ネット上位の世の中でもやっぱり印刷された写真には魅力があるし、垂れ流しではなく、セレクトされ精査された情報に触れることができるのは本当にありがたいんです。
写真好きの人は是非。定期購読はこちら。