ゴーグルをつけた観客がこちらを見ているのはSF的だった

金曜日に千葉桜洋写真展「指先の羅針盤」のギャラリートークのお相手に銀座ニコンサロンに向かった。

 

10人ちょっとくらいかな、などと思っていたら会場は超満員で、立ち見まで出てる。しかも前方には田中長徳さんが座っているではないか。ちょっと焦った。

 

千葉桜さんは耳が聞こえないので、手話通訳者が2名、バックヤードでは音声を文字起こしするかたがいて、その文字列は大型スクリーンにリアルタイムで映し出されるようになっていた。その他にも文字が映像としてゴールに映し出されるデバイスも希望者に配られていた。

 

いつものトークショーの雰囲気とは違う。初めてニコンサロンに足を運んだような方が多いような感じだった。

 

文字中継のおかげで千葉桜さんとの話はかなりスムーズにできた。始まる前に彼は「トークショーなんて初めてだから、渡部さんにしがみつきます」と言っていたが、なかなかどうして僕の質問に堂々と答えていた。

 

参加者の質問がよくて、トークショーは盛り上がりのうちに終わることができた。

 

僕が終始言っていたのが「耳の聞こえない人が撮った自閉症の息子さんの写真というフィルターで見ないでくださいね。そういったバイアスは写真を見るときにじゃまになります。作者の意図なんてわからなくていいんですよ」

 

障害者の写真という見かたをしなくていいのだ。

 

千葉桜さんもセレクトでは編集を手伝ってもらったカロタイプの森下さんと「うまく写っているもの、自意識が出過ぎているものははずした」と言っていた。

 

伝えたいものがあって、写真を使ってそれを表現していると思いがちだが、そうでない場合もあるし、むしろその方が面白かったりする。コントロール外の偶然を期待することが多い。

 

今回の写真展の中で時折風景写真が差し込まれているのだが、とても魅力的だ。それは息子と一緒に歩いているときに彼が立ち止まってじっと見ていた風景なのだ。何か特別なものは写っていない。なぜ立ち止まっているのか千葉桜さんにはわからない。

 

それを「彼は何を見ているのか」と同じ方向を向いて写真を撮る。つまり千葉桜さんは「わからない」ものを撮っていることになる。

 

わからないけれど、言葉にはできないけど面白いと思えるのは写真が持つ大きな魅力なのだと思う。

 

銀座ニコンサロンでの写真展は明日火曜日15時まで。