風太郎

月曜日の夜は珍しく娘もいて、僕の大学の講座もなくて皆で夕食を食べた。

家族が揃うと必ず風太郎という飼いネコも側にやってくる。もう14歳(人間で言ったら75歳くらい)になるが病気ひとつしない元気な子だ。顔を僕の足に擦り付けて「撫でて」いつものお約束だ。尻尾の辺りをポンポンと軽く叩くとお尻を持ち上げてゴロゴロと喉を鳴らす。

その日はお酒もご飯もおいしくて本当にいい夜だった。

翌朝娘が玄関に倒れている風太郎を見つけた。もう息をしていなかった。抱き上げるとまだ暖かくて柔らかかった。亡くなってすぐだったのだろう。

苦しんだ形跡もなく、喉に詰まらせた様子もなく、ただ眠っているように見えた。

どんなに「寿命であった」と言い聞かせても気持ちの整理がつかない。こんな爆発的な感情が自分の中にあったのかと驚くくらいに泣いた。彼の存在を感じさせるものが目に入るたびにどうしようもなくなる。

全ての始末を終えて出前の夕食を食べた。なんの味もしない。前夜と違うのはただ風太郎がいないだけ。ネコなんていてもいなくても生活に支障はない。でもなんなんだこの喪失感は。破壊的だ。

もうただ時間が過ぎるのをじっと耐えるしかない。

よく生きるのではなく、ただ生きる。もうそうすることしかできない。

ひとりでいると、いなくなった風太郎を部屋の中に探している自分がいる。


こんなこと読ませてしまって申し訳ありません。彼を可愛がってくれた方も多いのでご報告もあって。どうかメール等はご遠慮ください。