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この時代、写真は教えてもらわなくてもちゃんと撮れる。スマートフォンをつかっているということは、取りも直さずコンパクトカメラを携帯しているのと同じ。好きな時に好きなように撮れるようになった。

感じるままに撮ればいいのだ、とよく耳にする。それは半分本当で、半分違っている。

音楽で言えば、セッション中に即興演奏をしようと思った時、自分勝手に演奏しているわけではないことは誰でも知っているはず。キーとスケール(音階、音の高低の幅)という約束事に基づいて指が動いている。何千回、何万回とスケールをさらったものにしか自由に演奏することができないとミュージシャンから聞かされた。

写真も同じようなものだと思う。写真はデジタルだろうと銀塩と呼ばれるフィルムや印画紙だろうと、光エネルギーを可視化する行為に変わりはない。これだけ進歩したデジタル技術でも人間の見たようには写らない。わかりやすく言えば写真では日向と日陰は両方写らない。どちらかを優先すればどちらかが犠牲になる。HDR(ハイダイナミックレンジ)と呼ばれるスケールを増やす機能は以前からiPhoneにも付いているが、現在でもうまく作用していない。

人間の目に見えるように写らないのだから、まして感じるままに写るわけがない。そこには音楽と同じように光の幅、スケールが存在する。2Bがいまだにフィルムを使い印画紙に焼き付けることを基本としているのは、光のスケールが認識しやすいためだ。

光があたったところの銀が化学反応を起こすことで黒く変化する。この単純極まりない方法は、単純であるがゆえに楽しさが実感しやすい。暗室作業は、光が目に見える形になることを感じる行為なのだ。

スケールを理解することで、はじめて感じるままに、自由に撮れるようになると思っている。

このスケールという考え方は写真を見る行為にも当てはめることができる。この場合のスケール、つまり幅は、歴史と言い換えることができるのではないか。流れを把握することで、現在行われていることが理解できる。感じるままに見るのはもちろんだが、作家の背景(時代性、土地性、宗教など)を知ることで見え方は随分と変わってくるものだ。


2Bでは写真を楽しむためのほんのちょっとしたコツのようなものを13年間伝えてきたつもり。そしてそれは常にアップデートしている。

たくさんの写真のワークショップがある中で、2Bは常に基礎であることを目指している。