確定申告の書類を作っていて、ためいきをひとつ、ふたつ、みっつ。
フリーになって丸30年。よくここまで生き延びられたと思う反面、いつまで仕事を続けられるのかと思うようになってきた。そんなことは仕事を始めた当初思ってもみなかった。いや、想像することにあえて蓋をしていた。
なんとかなる、結果オーライが信条だった。
30歳台は世の中にたくさんの種類の仕事があったから、いつまでもこのままいけるものだと思っていた。スキルを重ねれば、よりよい仕事につながると信じていた。いうなればヨーロッパ近代思想みたいなもんだ。
でも徐々に仕事というものはスキルや経験があるだけでくるものでないということに気がつき始める。なぜフリーなりたての、なんの実績もない新人に仕事がきたかといえば、そういう「順番」だったのだ。
順番だから、いつかはそのポジションを追われることになり、次の若いカメラマンの順番となる。例外はほとんどないと言っていい。順番を無視してそのポジションにいることができる人というのは怪物なのだ。
同じ波に乗り続けていればいつかは岸に着く。だからフリーの人たちは新しい波を捕まえ続けなくてはならない。目の前に波が来たと思ったら手をあげて周囲に優先権の主張をしなくてはならない。
派手で大きな波を一本乗るより、小さな細かい波を何本も乗る方が安定的に儲けることができる。しかし得てしてフリーで生きるという人は大きな波に憧れる。
大きな波に乗った経験があると小さな波では物足りなくなる。僕らの世代のカメラマンは大きな波が無数にあった時代だったから、いまだに夢見がちなところが抜け切れていない。
いや、頭ではわかっていても体の奥底にくすぶっているものがあるのだ。
30歳のカメラマンに「もし渡部さんが今30歳だったら何がしたいですか?」と聞かれたとき、迷わず「勉強がしたい」と答えた。でも考えてみれば、それはこれからでもできる。
海外に住むという経験はまだないから、日本以外で暮らしてみたいが、あとはフリーカメラマンとしてはおおかた経験できた。なので新しいことの想像がつかない。
もちろん後悔は山ほどあって「あの時ああしていれば」と思わぬ日はない。かといって30歳に戻ったら同じことをやってしまうんだろうということは火を見るよりも明らか。勉強したいと口に出たのは、同じ失敗をしたくないということなんだろう。
人生が二度あったとしても結局同じことを繰り返しそうな気がする。