週4回、エプサイト下のタイ料理屋さん「ソイ55 」。美味しいからいいけど。

月曜日はさすがに疲れが出てエプサイトをお休み。

先週土曜日はエプサイト内で日本大学芸術学部写真学科の学生さん30名弱を相手にセミナーを開いた。

題して「現代アートってなんだ? 複製可能な写真に4億円の値段がつく時代」

グルスキーの写真「ライン川」が2011年クリスティーズのオークションで4億円を超す値段で落札されたのは記憶に新しい。円安の今なら5億円を超す値段だ。

写真好きでもない人に「4億円の写真がある」というとびっくりする。そしてこれがその写真だと「ライン川」を見せるとほぼ失笑する。そして決まって「こんなの俺でも撮れるよ」。

たしかにそう思えてもしかたがない。実は落札された時に僕も???となったのも事実だ。しかしライン川MOMA、テートモダンを始め、国際的に有名な4つの美術館に収蔵されている。

調べていくとグルスキーの写真は現代アートの系譜の延長上に位置しているのがわかる。だから美術館がこぞって買うのだ。

ある世界的な現代美術館のディレクターが「今後どんな作品を展示するのか」という問いに「アートの系譜の延長上にあるもの」と答えていた。

つまり言い換えれば個人の感情や感覚の発露ではないということになる。海外に行くたびにそこのところを感じていた。どうやら自分が考えている写真と違っているようだ。

アートの系譜を読み解くためには美術史をやらなくてはならない。50歳を過ぎる頃から改めて写真史と美術史を勉強しなおした。

やればやるほど美術史と写真史はつながっていて、現在では一体になっていることがわかった。「写真は写真として存在する」と教え込まれ、そう信じていたことが完全に崩壊してしまった。全てはつながってできていたのだ。

たしかにデジタルカメラが普及する以前は写真は印画紙に定着されるものであり、思い通りに扱えるようになるには、どんなに優秀なものでも10年はかかった。そのため他の分野からの参入は困難で、ゆえに「写真は写真で存在」できたのだった。

それが2005年からは30万円出してデジタルカメラを買えば10年分のスキルを手に入れることができるようになってしまった。そこからは一気に他分野から写真に参入するようになってきた。

もはや写真撮影術は術とは言えず、それを学ぶためだけに4年間を費やすことの必要性は無くなってしまったのかもしれない。現に写真学科は数校から消滅し、美術学科の写真コースへとかわってきている。写真は写真だけやっていては足りないということだ。

セミナーでは美術史のざっくりした流れから近現代美術へどうつながっているのか、経済と美術の関係性はどうなっているのか、写真は今どうなっているのか、どこへ進もうとしているのかを自分の経験を踏まえて話をした。

土曜日の夜にわざわざ来てくれただけあって1時間40分の講義を熱心に聞いてくれた。僕も母校の学生に向けて講義ができたのは光栄なことだった。

もし僕が20歳の時にこれに気がついていたら。そう思いながら話をしたのだった。