ようやく水温が25度近くにになってきたので、四国に行った時のプリントを始めた。
22本中当たりは3~4枚というところ。そのうち2枚をルデコで展示するつもりだ。
9月15日、ヤクルトのバレンティンがプロ野球新記録の56本目のホームランを打った。
http://www5.nex.nikkansports.com/photos/20130916/1409
バットとボールがくっついている。まさにインパクトの瞬間を捉えた写真だ。
この「歴史を変えた」一瞬を捉えたのは新聞社時代の後輩、中島郁夫。入社3年目にしてできた初めての後輩だった。僕が52歳だから彼も50歳。スポーツカメラマンとしてはベテラン中のベテラン。
25年前のスポーツ写真に求められたのは何をおいても「決定的瞬間」。野球においてはバットとボールがくっついたようなインパクト写真。各社のエースカメラマンがしのぎを削ってその瞬間を狙っていた。
エースカメラマンが座るのは一塁側ダッグアウト横のカメラマン席。その他にもビッグゲームともなれば3塁側、センター、ゴンドラ(一塁側中2階)、遊軍と配置される。一塁側のカメラマンが狙うのは主にバッター。特に今回の場合はバレンティンのみと言っていい。
一見、連写で撮れば簡単そうに思える打球のインパクトだが、どんなに高速連写しようとも真のインパクトは一瞬だから、なかなか写るものではない。
まして歴史を変えた一打ともなれば奇跡的な1枚だ。
シャッタースピード1/1000秒、絞りf4.0、ISO8000で撮ったと書いてある。中島のことだからニコンD4だろう。レンズは300ミリ。
25年前は1/250秒、f2.8 感度は1600相当だった。1/250秒より1/1000秒のほうが当然インパクトを捕らえるのは難しい。 まさに職人技。
ところがこの決定的な歴史を変えた一瞬の写真は紙面では小さく丸抜きでしか使われなかったそうだ。
数年前、数l十年ぶりに彼と飲んだ時に「渡部さん、僕らが追い求めていた決定的な瞬間なんてもう必要ないんですよ。今はドラマを感じる写真が求められるんです 」。そう話す彼はちょっと寂しそうだった。
いつでもどこでもすぐに結果が分かる時代に、翌日のスポーツ新聞に求められるのはゲームの裏に隠されたドラマ。以前は記事に求められたドラマ性が写真にもということなんだろう。
あいかわらずモノクロプリントしている自分と、一瞬にかける職人でいようとする中島はだぶって見える。