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『波長』

ワークショップでプリント実習をしているときのこと。
「今日はカラープリントだから、モノクロのときのようにオレンジ色のセーフライトは使えないよ。真っ暗の中で作業してもらうから」
「何で使えないんですか?」
「だってカラー印画紙はオレンジの色を感じちゃうから」
「じゃあどうしてモノクロは感じないの?」
「そういう風につくってあるの」
「カラーはどうしてできないの?」
「そこ聞きたい?」
「ぜひ!」
「話、長くなるよ」

そもそも人間が「光」って感じているのは電磁波なんだ。ほら、そこ、嫌な顔しない。大丈夫、変な話じゃないから。
光の代表って言ったら太陽だよね。その太陽の熱で様々な波が生まれているんだよ。温度の高い部分からはサイクルの短い波が、表面の温度の低いところからは長い波が生まれてくる。この波の長さのことを波長と呼んでいるんだ。ここまで分かった?
 それで、その波は当然地球にも届いてくる。様々な波長の中で、ある一定の波(およそ380ナノメートルから750ナノメートルまでの間)の刺激を人間の網膜は「色」として認識しているんだ。ちなみに「ナノ」は千分の1ミクロンのこと。「ナノテクノロジー」って聞いたことあるでしょ。
長いほうの波長から人間の網膜は、赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫と感じているんだ。もちろん、急に赤からオレンジに変わるわけじゃなくて、徐々に変化していく。
この人間が感じることのできる波長を「可視光線」って呼んでいる。
だから太陽の光っていうのは、全部の波長が混じり合って、人間は白い光だと認識しているわけ。つまり「光」は波で、ある一定の波を人間の網膜が色と感じているんだ。わかったかな? 

ということは、人間が感じることができないもっと短い波や長い波も、地球上には存在していることになるよね。それで、僕たちに見える一番短い波長「紫」より外側の波長を「紫外線」、長い波長「赤」より外側の波長を「赤外線」と呼んでいる。存在するけど認識できないということ。

さて、ここでセーフライト話に戻ろう。長かったね。モノクロの印画紙は、オレンジの波長より長い波長には感じないようにつくってある。赤外線ならぬ「オレンジ外線」というわけだ。
 でも人間は赤の波長まで感じることができるから、モノクロ印画紙の感じないオレンジは見える。その波長の違い生かしたのがセーフライトっていうこと。
 カラーの印画紙の場合は、人間の感じる波長全部に対応しているから波長を生かしたセーフライトってつくれないというわけだ。

波長のことを知ると、いろいろなことが分かって面白い。

たとえば、小学校のときに、三角プリズムの実験をやったこと覚えてない? あのとき光をガラスのプリズムに当てると赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫の順番に色が広がったでしょ。ガラスは光を色に分解する性質を持っているんだ。雨粒もガラスと同じようなものだから、太陽の直射光が雨粒の中に反射して七色に分解する。これが虹。やっぱり赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫の順に並んでいる。

紫外線が肌に良くないのは、短い波長は直進性が強く、人間の細胞にダメージを与えるからだ。太陽からはものすごく短い波長も出ている。でも大丈夫。人間に有害な波長のほとんどは、大気圏を取り囲むオゾン層が跳ね返してくれている。直進性が強いということは、障害物に弱いということでもあるのだ。だからオゾン層が壊れて穴が開くと、人間には有害となる波長までが地上にまで届いてしまう。温暖化でオゾン層に影響があると懸念されているのはこのことだ。

夕日が赤いのは、日が沈む頃になると、太陽は傾き、大気を通過する距離が日中より長くなる。すると直進性が高い短い波長から大気中のチリやホコリ、水蒸気によってカットされ届かなくなる。それで夕日は段々と黄色からオレンジ、赤に変わっていく。海に沈む太陽が赤くなるのは水蒸気のせいだ。

乾燥して風が強いところでは夕日は赤くならない。チリや埃が吹き飛んでしまうからだ。これはモンゴルで経験済み。太陽は白々と何事もなかったように沈んでいって、ちょっとがっかりした。

モンゴルで夕日を見るには、水蒸気をたっぷり含んだ雲の存在が不可欠なのだ。