青森へ。

女川を出るのが夕方近くになったので、その日は東北道近くの古川のビジネスホテルへ。

飲み屋で聞いたら古川のあたりも揺れがひどく、店の酒瓶が全部落ちて、周りの店では食器が全滅したところも多かったそうだ。その店の棚はは「引き戸」だったので食器は無事だったそうだ。

翌朝6時に出発。東京から車を出したのだが、運転嫌いなので青森まで一人で運転し続けるのは無理。そこで今回は妻に一緒に行ってもらった。娘はお留守番だ。

予定は何も決めていないので、とりあえず下北半島に車を走らせた。「恐山」がちょうど5月1日から入山できるようになっていたので行ってみることにした。

混んでいるかなと思ったのだが、恐山の駐車場は意外とすいていた。大型の観光バスが1台もいない。

本堂の横に宿坊と呼ばれる宿泊施設があったので、ダメもとで泊まれるか聞いてみたら、あっさりOK。1泊ひとり12000円。朝のお勤めには必ず参加しなければならない。

とはいえ、宿坊という地味なイメージからはかけ離れた、かなり立派な施設。高級温泉旅館並みの施設だ。食事は当然精進料理だが、これがかなりおいしい。

予想していたより恐山の敷地は狭かった。もっと広大なものだと思っていた。それは今まで見てきた写真から勝手に想像していたのだ。

写真と現実との一番の違いはスケール感よりも匂いにある。立ち込める強烈な硫黄臭が体に染み付くようだ。

下北半島独特の重い雲が恐山の荒涼とした風景を一層際立たせる。

とても写真的な場所だ。でも1泊して時間もたっぷりあったのに、ほとんど撮らなかった。

はっきり言ってしまえば女川のほうが凄いのだ。特別な場所である恐山より現実世界のほうが特別になっている。

ちょっと前まで古く崩れた建物や這い工場があると喜んで撮っていた。もはやそれはむなしい。

いったい何を撮ろうか。青森にいる間ずっと考えていた。