「しんじゃうかもしんない」その1

キャニオニングという遊びがある。渓流を体ひとつで下ったり、滝つぼに飛び込んだりするスポーツだ。

雑誌の表紙にキャニオニングで絶壁から飛び込むシーンを使いたいということで群馬県の水上にロケに行った。ガイドは30メートルの高さからも飛び込んでしまうクレージーなオーストラリア人だ。ロケハンの結果、撮影ポイントは川の対岸の絶壁の下ということになった。

当然道などないからウェットスーツを着てヘルメットをかぶり、グローブにシューズと言う完全武装で直角の壁をロープで降りて激流を対岸まで渡らなければならない。

カメラはクーラーボックスに入れて上からビニール袋をかぶせる。今日は新アシFの初仕事。しょっぱなからめったにない撮影となった。

幸い対岸には足場がしっかりしたところがあり、撮影には困らなかった。曇っていた空が晴れてきて撮影はバッチリうまくいった。撮影が終わって気がついた、帰りはどうするんだ?

ロープに吊るされ断崖絶壁を下ったはいいが、足場が悪くてとても上れたもんじゃない。するとガイドがにっこりと微笑んで「荷物はロープで引き上げるから、一緒に川を下りましょう。大丈夫楽しいよ!」

この時期の川は雪解け水で増水していてとても危険だ、とさっき言っていたじゃないか!

かといって崖をよじ登って帰るのは不可能だ。ちょっと楽しそうかなと、川を下ってみることにした。仰向けの状態で腕をぴったり胸の前に合わせ、足を軽く曲げた姿勢で川に入る。できるだけ水の流れに逆らわないようにする。途中洗濯機のようにもまれてしまうスポットが何箇所かあるがライフジャケットを着ているから大丈夫。という簡単なレクチャーを受けて流れだした。

最初は軽い坂が続き、水にもまれはしたが楽しかったので、「OK!OK!」と調子にのっていた。
しばらくするとガイドこう言った。
「ここが最後。ちょっと急だけど問題ないヨ。さあ行こう」