和風ハンバーグ。山芋とキュウリのサラダ。

もう7年前にアシスタントをしていたYがイタリアから一時帰国した。

2年前からシチリアに住んでいて、カメラマンをやっているものだとばかり思っていた。

ところが、職業はいつのまにかプロ野球選手になっていた。セリエAに属するシチリアのチームと契約して、ちゃんとお金をもらっているというのだ。年棒といえるほどの額ではないにせよ、お金をもらってプレーするのだから立派なプロだ。しかもシチリア代表選手に選抜されている。

突飛な話しに耳を疑う。いつのまにかアシスタントからプロ野球選手が生まれた。しかもセリエA

来週にはメキシコへと旅立つ。スペイン語を覚えたらキューバに野球をしに行くというのだ。彼の肩書きは、写真の撮れる野球選手というわけだ。

Yは大学を中退して僕のところへやってきた。不器用で、要領が悪くて、最初の頃はまるで使い物にならなかった。

そのかわり一生懸命だった。その一生懸命さは周りの編集部やデザイナーに徐々に伝わっていく。彼が僕のところを離れたときに、すぐに週刊誌連載の話がきた。

僕とYとの最後の仕事での連携プレーは、ゾクゾクするものがあった。打ち合わせの後は言葉を交わすことなく別々の動きをして、すれ違いざまに必要なものが手渡される。阿吽の呼吸というものを始めて実感した。

不器用なYがイタリアで生きていくために野球を選んだのだ。野球で認められることが、イタリアに受け入れられることになったわけだ。

メキシコでもキューバでも、野球のあるところならYはどこでも生きていけるだろう。