コラムvol88「カメラオブスキュラ」

先日日記で書いた「暗室に来ませんか企画」。来客者は全部で5人。なかなかいい感じだった。

その中で、ある女性が持ってきてくれた美大での卒業制作作品、「カメラオブスキュラ」がとても面白かった。カメラオブスキュラというのはカメラの原型なようなもので、一枚の凸レンズ(虫眼鏡)を箱の一方に取り付け、反対側にスリガラスやトレーシングペーパーを貼り付ける。するとあら不思議、レンズの焦点がスリガラスに結び上下左右逆に外の風景が映し出される。その絵をなんとか永遠に定着させようと科学的な試みを繰り返して写真というメディアが完成することになるわけだ。

彼女の作ったものの中には、筒の先端にピンホールを空け、中に貼り付けたトレぺのスクリーンに像を映し出すものもあった。微小な穴、おそらくコンマ1ミリくらいの穴を通り抜けた光が、滲んだほの暗い像をスクリーンに結ぶ不思議。理論上は知っていたものの、実際像が結ばれるのを見るのは始めての体験だった。

虫眼鏡を使ったオブスキュラは、重なり合った箱を前後に摺動させることで焦点を変化させピントを合わせることができる。このピントを合わせる行為が楽しい。スリガラスに徐々にピントが合っていく過程は、シノゴのそれとまったく変わらないが、よりプリミティブな感動を与えてくれる。

スリガラスのサイズがどうも見慣れた大きさに思える。ためしにシノゴのフィルムを当ててみると、測ったようにぴったり10センチかける12.5センチのシノゴサイズだった。

彼女は別にシノゴを意識して作ったわけではなくて、手持ちでピントが合わせることができて、それなりに満足できる大きさを考えていたら自然にそのサイズに行きついたといっていた。なにかシノゴサイズにたくまざるものを感じる。

常々、ローライのファインダースクリーンに映る風景の美しさをいろんな人に言っているが、写真を撮る行為をいさぎよく捨てたカメラオブスキュラには到底かなわない。見るという行為のなんと創造的なことか。カメラオブスキュラを海辺に数十台並べ、打ち寄せる波や流れる雲を映すインスタレーションをやったら楽しいだろうなあ。

「撮るより見ることのほうが楽しい」と言う彼女の言葉は、この装置を前にするとかなり強力な説得力を持つのだった。