コラムvol83 職業はカメラマン

9歳になる娘には、小さい頃から「我が家は父親が写真を撮って生計を立てている」と教えてある。

写真を撮って、その対価としてお金をいただくわけだから、カメラマンと言う職業はとってもわかりやすいものだと常々思っていた。ところが一般の人から見るとそうでもないようだ。

ご近所や娘の父兄に職業を聞かれれば、当然「カメラマンです」と答える。するとほぼ8割の確率で「写真屋さんですか。どこのお店ですか?」と聞かれてしまう。「いえいえ、そうではなくて一人でやっています」と答えようものなら「エッ、おうちでやってるんですか。知らなかったなあ。七五三とか撮ってもらえるの」となる。

仕方がないから「会社に属してはいなくて、フリーとして雑誌の写真を撮っているんですよ。おもに人物が多いです。あなたがご存知の雑誌なら週刊××で…」と噛んで含めるように説明したとしても「人物!ねっ、ヌード、ヌード撮ってるの!」と必ず色めき立たれる。なんで雑誌で人物だというとヌードになるのかなあ。

「新聞社に勤めています」とか「雑誌社のカメラマンです」ならば分かりやすいのだろうが、フリーカメラマンというのは、どことなく胡散臭さがつきまとう。なにかいかがわしいことをしているんじゃないかと思われているふしがある。カメラマンとして社会的認知度があるのは篠山紀信アラーキー。それに加納典明とくれば、いかがわしいと思われるのももっともな話しだ。

職業を聞かれたら「カメラマンです」と答えると書いたが、確定申告の職業欄は「写真家」としてある。まあ、写真家と名乗れるのはこんな時くらいなもんだ。写真家橋口譲二氏は「自分はカメラマン」だと常々言っている。彼ほどの人がいうと「あえて写真家ではなくてカメラマンなのね」と大家の謙虚さを感じてしまう。

そうそう、名刺には「Pphotographer」と刷ってある。僕だけではなく、ほぼ100パーセントの確率でカメラマンの名刺にはフォトグラフファーと書いてある。「Cameraman」はムービーのカメラマンを指すためだ。発音は「キャメラマン」とちょっと気取る。

先日、「職業は?」との質問に「写真家です!」と鼻息荒く答えた。相手は婦警さん。駐車違反の取締りの時だ。なんで「写真家」などと答えたかといえば、「テメー、なめんなよ」と思ったからに違いない。31分でレッカーという理不尽さに少々興奮していたのだ。