元アシスタント会

朝=/燻製鯖のパスタ/夜=ポテトサラダ、玄米のドライカレー 

久しぶりにウクレレの集まりがあった。来年のルデコグループ展のときに演奏するための課題曲3曲が決まったので、やる気が出てきた。楽器は誰かと合わせると面白さが何倍にもなる。

週末に元アシスタント3人がやって来た。彼らは30年以上前に手伝ってもらっていて、当時は3人とも学生だった。授業の合間をやりくりしてローテーションのような形で撮影のアシスタントをしてもらっていたのだ。当時、彼らは20歳そこそこ、僕は30歳。一生を時計に例えるなら、針は午後1時くらいを指していたことになる。

大学を卒業した彼らは、それぞれ写真の道に進み、大きなスタジオを構えた者、広告や雑誌で仕事を続ける者、著作を出して大学の講師をしている者もいる。僕よりもずっと稼いでいる。でも、何十年経ってもボスとアシスタントの関係は変わらない(笑)。僕には誰かの元で働いた経験がない。やっておけばよかったなと今では思う。ボスとアシスタントの関係は、一時的に家族といるよりも長い時間を過ごす関係だから特別な存在。僕はアシスタント運がいい。なぜか、そのときに必要な人材が目の前に現れて「アシスタントにしてください」と言ってくる。これは本当に不思議。この歳になっても彼らに助けてもらっている感じ。

 

<2021年12月19日の日記から>

深夜にカップヌードル。「いい年して何やってんですか」と怒られそう。でも美味かった。そんな気分になったのは全13回の美術史講座の第4期が全て終わったから。開放感が半端ない。1月からは「写真史講座」が始まるが、ちょっとの間、講座配信はお休みになる。オンラインでの配信は慣れてきたが、やっぱり対面がやりたい。このままコロナが落ち着いたら来年早々始めたいと思っている。美術史講座を受けてもらっている方を対象に写真ワークショップを開けば、かなり面白いことができるんじゃないだろうかと期待してしまう。「GRオンラインイベント」は加納満さんがお相手だったので、90分があっという間だった。最後はかなり脱線したが、加納さんがいたから安心して話せる。普段ひとり配信だから掛け合いができるのは本当に楽しい。「オンラインイベント」ではあるが、担当者や他の出演者とも会えて「浮かれた」気分だった。視聴者プレゼントで、加納さんが最新作のプリントを額装でプレゼントするというので驚いた。だって、本気の銀塩プリント。これもらえたら最高のクリスマスプレゼントだよ。

<2012年12月19日の日記から>

妻が風邪でダウン。熱が出た。友人がブログで、『da.gasita』を送料や振込手数料無しで購入できますよと書いたら、なんと3日で10冊の注文があって、新たに10冊追加注文がきたので驚いた。写真集は値段が張るし馴染みがないから売れないというのが常識みたいになっている。しかし「da.gasita」は、通常1ヶ月もすると売れ行きがぱたっと止まるところを、ジワジワずっと売れ続けている。『旅するカメラ』を最初に出した時と同じだ。大きな宣伝をしているわけでもないのに売れているのは、買ってくれた人が口コミで広げてくれるからだ。本当は自ら自作を宣伝しビジネスとしてやっていかなければならないのだが。自己宣伝は日本人の苦手とするところで、もっと考えなくてはならない必須のものだと感じている。海外の写真家はどうやっているんだろう? どうやって発表し、どうやって生計をたてているんだろう。日本は日本、海外と比べてもしょうがないと言われるかもしれないが興味はある。アメリカのサンタフェに「CENTER」という大きな写真団体がある。そこで毎年フォトフォリオレビューが開かれるので申し込んでみようと思っている。「CENTER」と言えば、今年度の写真教育者に与えられるTeachingAwardにノミネートされたと以前書いたが、結果が出た。残念ながら「讃えらる候補者」どまり。賞金3000ドルはいただけなかった。それでも、下のほうに「Satoru Watanabe 2B Workshops 」とある。2Bもとうとう国際的だ(笑)。上位3人まではレビューご招待なのだが、これも選外。ここが主催しているReview Santa Feはレビューを受けるのに事前審査が必要で、それを通るのはたった100人のみ。世界中からアクセスがある中の100人だから、通ればそれだけでプロフィールに書けるくらいだ。昨年はPhotographerHalさんと保坂昇寿さんが行って大きな結果を残している。永田陽一さんも行ってブログに報告記事を書いてからサンタフェのことを日本でも知る人が多くなった。
http://yoichi-portfolioreview.blogspot.jp/2009/06/check-in-private-reception.html?m=1

前作『traverse』を出した時はアルルに行った。『da.gasita』はアメリカへ持って行きたい。気持ちはいつも「新しい写真集ができたよ。見て見て」だ。アメリカの人たちがどういう反応を示すのか。しかし審査の壁は厚い。締め切りは来年1月末だ。

ずーっと書いてた

朝 魚の干物、キンピラ、半熟卵、納豆、白米、味噌汁

夜 ポッサムキムチの玄米炒飯、野菜の黒酢和え

1ヶ月くらいずーっと書籍の原稿を書いていた。講座配信や2BChannelをこなしつつ、たまにギャラリーとか美術館に行って息抜きする以外はずーっと。そんなに急がなくてもいいのだけど、気がせいてしまって。普段も原稿依頼があると、その日のうちに書いてその日のうちに送るから編集者がびっくりする。今回も「1本4000字で34本を目処で」と言われていたので、毎日4000字ペースでひたすら書いていたら、30本を過ぎたところで「もう十分な分量です」と編集部から連絡があった。あれ、もうやらなくていいのか? と思ったら、書きかけの2本はもう全然やる気が起きない。とりあえず、書かなくていいみたいだ。

『da.gasita』再販の印刷もうまくいった。前と全く同じものを作ったのだが、10年前とは紙もインクも違うので、製版のデータを作り直してもらって、前回とは違った感じの印刷になった。前回はノスタルジー色が強かったが、今回は高精細でクールな印刷。間違いなく、現時点で最高のクオリティ。モノクロ写真集の印刷では世界レベル。中身じゃなくて印刷はね(笑)今回思い切って再販してよかった。これは僕の財産だから。

<2021年12月17日の日記から>

12月17日金曜日と18日土曜日に「リコーオンラインイベント」が開催される。https://www.grblog.jp/article/15385/  前回同様、僕は応募された写真を見ながら話をする役目。違うのはお相手が赤城耕一さんから加納満さんに変わったこと。赤城さんは他のコーナーに出演する。赤城さんも加納さんも僕も1961年生まれ。つまり全員還暦だ。我々は土曜日の13時からのライブ配信。本日は、そのオンラインライブで紹介する応募作品を選ぶ日だった。リコーの担当者と加納さんに我が家に来ていただいて、お昼を一緒に食べてからの打ち合わせだった。加納さんがどんな写真を選ぶか興味津々。一筋縄ではいかない。たくさんの応募作から15点に絞るのだが、かなり難しい、そして楽しい。何度も何度も二人で写真を見て話すのだが、この様子自体を流してもいいくらい。本番の準備は万端。当日は僕と加納さんがGRで撮った写真も出します。打ち合わせ中、加納さんと「これからどうする?」という話になる。僕たちは社会的に考えると、そろそろリタイアの時期。加納さんは小学校の頃から『カメラ毎日』を読んでいて、そこが写真の出発点だった。「あの頃、何の知識もないときに、かっこいいと思えた写真が自分の原点。だからもう一度そこを探そうと思う」と言っていた。確かに刷り込まれた意識は乗り換えることができない。彼は、いろいろな経験をしてきた上で、もう一度写真をやっていきたいと言っていた。とはいえ、同じことをやるわけではなく、最近は「モンタージュ」にも取り組んでいるそうだ。僕も死ぬまで変わり続ける道を選ぼうと思う。「転がる石」だ。

<2015年12月17日の日記から>

10年以上使っていたインクジェットプリンターのエプソンPX-5500が今年の春に壊れてしまって以来、次期プリンターをどうするかで悩んでいる。現在はA1ノビ大型プリンターのPX7500を使っているのだが、A4が使いづらい。意外とA4需要が多い。心はすでに何を買うか決まっているのだが、必ずしも心と財布は一致しない。むしろ相反する。どこかに出かけるのであれば財布の紐は即フルオープンになるのだが、年々物に対しては厳しくなる。あいにくPX5500の修理期間がちょうど終わってしまっている。欲しいのは今年のエプサイトの個展で使わせてもらったPX-3V。インクタンクが大きくて使い勝手がよかった。置き場所も5V2とさほど変わらない。本体価格は安売り店で15万円くらい。目をつぶれない値段ではない。購入寸前までいった。しかし気づいてしまった。1本5千円ちかくするインクを全種類予備に買ったら合わせて20万円以上だ。年末に20万円かあ。自宅の湯沸かし器を買い換えるためのプール金がちょうど20万円。まさかそれに手をつけるわけにもいかず悩みっぱなし。A4でプリントアウトして提出しなければならない用が出てきたので、今日はこれから新宿エプサイトのラボを使わせてもらうことにした。ここで年間登録してプリントするのも手だな。なにせキャリブレーション完璧だし。そんなことを考えつつ、ロイヤルホストで朝ご飯なう。

じゃない動画を作りたい

写真集『da.da』が「ふるさとパンフレット」審査員特別賞を受賞しました。それを記念して郵送(無料)でお届けします。下記までお電話でお申し込みください(12月2日まで)。松本広域連合事務局(平日9:00~17:00) 電話=0263-87-5461

朝=黒ムツの塩麹焼き、だし巻き卵、納豆、白米、味噌汁/夜=タコの玄米パスタ、レンコンとニンジンのサラダ

屋久島で撮った動画を「2BChannel」に2本アップ。登窯の火入れの動画のコメントに「こんな黒つぶれした動画は写真家ならでは」といったお褒めの言葉をいただいたが、まさに「じゃない動画」かもね。写真しかやってこなかったので、動画のお約束をよく知らない。でもそれでもいいような気がしている。動画はうまくならないように頑張る。

年末のキャッシュバックキャンペーンでソニーのレンズが安く手に入るというので、APSーC用のレンズを1本買ってしまった。18-105mmF4で電動ズーム内蔵。35ミリ換算だと28-150mmくらいの広いレンジの標準ズームになる。静止画で電動ズームなんて全く必要としないが、動画だと便利。かなり古い設計のレンズだが、AFもよく合うし、今まで足りなかった標準域をカバーしてくれる。インタビュー動画で使いたい。動画にばかり気を取られているわけにもいかないのだけど、今の興味はそっちに引っ張られている感じ。書籍の原稿は3分の1くらい書けた。ここからが本番。

 

<2021年11月28日の日記から>

土曜日とあって、ルデコにはたくさんんの人が来てくれた。そして3階の学生の展示を皆が感心している。うまさを追求しない「じゃない写真」ってこういうことかと実感したようだ。そういえばテクニカル的なアドバイスはほとんどしなかった。撮りたい対象物が明確にあるなら、その解決方法はいくらでも言えるけど、何かを撮りたいという欲求はほとんど感じられず、もっと深いところで模索していた。それを目に見える形にする過程が今回の展示になっている。見にきていただけるなら、なるだけ出展者の学生たちに質問してやってください。プレゼンを繰り返すことで、何かに気づくかもしれません。地下のプリジェクタープロジェクトも忙しかった。持ってきてもらったデータをDJのように次々とかけていく。面白いのがたくさん溜まってきた。19時からは軽いパーティ。告知はしていなかったが、それでも結構来てくれた。例の「ヨーヨー」の達人にもパフォーマンスを披露してもらったが、みんな度肝を抜かれていた。「ヨーヨーってこんなにすごいの?」が全員の反応。大道芸人として世界中どこでも食べていけるんじゃないかというくらい。やっていることは完全にアスリート。かっこいい。展示が始まって、彼らのことを見直してしまった。「もう絶対に学生とはやらない」と固く決めていたのだが、ちょっと気持ちが変わってきた。

<2007年11月28日の日記から>

昨夜から喉が痛いと言っていた娘が朝になって熱っぽいとだるそうに起きてきた。熱を測ろうにも体温計が見当たらない。どれどれと娘の背中に手のひらを当てて熱をみてみる。「あ〜、熱ある。でも37度ちょっとだな。2分はない。37度1分というところだ。今日は学校休んで寝てろ。後で医者行って薬もらっとけ」。小さいときに保育園にいくのに、毎朝、熱を測って連絡張に書かなければならなかった。朝のあわただしいときに、いちいち体温計で計るのもめんどくさいので背中に手を当て「大丈夫、平熱36度2分」とやっていた。手のひらにいつもと違う熱を感じると体温計を持ってきて計りなおす。そんなことを5年間やっていたら僕の手のひらはセンサーのように熱を測れるようになってきた。しかもそのセンサーは、ちゃんと直って熱が引いているのか、薬で一時的に熱が下がったのかまで判断できるのだ。薬で下げた場合は「芯」に熱を持っているように感じる。病院から戻ってきた娘に聞いてみた「熱何度だった?」「37度1分だった…なんで分かるの?」そりゃだてに父親をやっていないということだな(笑)。パリフォトビエンナーレ事務局から、作品買い上げについての連絡があった。1点につき50ユーロ。日本円にすると8500円くらい。5点買い上げなので4万円ちょっとということになる。海外の美術館が買ってくれたことは素直に嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

『da・da』受賞

朝=山かけうどん、半熟卵/夜=親子丼、シジミの味噌汁/夜食 チーズとクラッカー、ラフランス

写真集『da・da』が「ふるさとパンフレット」審査員特別賞を受賞しました。それを記念して郵送(無料)でお届けします。下記までお電話でお申し込みください。松本広域連合事務局(平日9:00~17:00)電話0263-87-5461

40年近く写真をやっていて、写真集を6冊も出しているのに写真の賞には縁がない。カメラマンとしては日経広告賞を何度か受賞しているけど、それはチームとしてで僕の手柄ではないし。写真賞を欲しいと思った時期もあるけど、最近はそうでもなくなっていた。今回の審査員特別賞は南伸坊さんが選んでくれた。僕としてはグランプリ狙いだったけど、担当者が喜んでくれているので、僕も嬉しい。担当者が違っていれば『da・da』は生まれていなかったいから。

まだ手にしていない方は是非とも電話してみてください。2冊届くので1冊は誰かにあげてください。そこで松本の話をしてもらえたら作った甲斐があります。

 

〈2021年11月24日の日記から〉

朝起きたら全身が重い。朝ご飯を食べてようやく体が動き出した。ルデコは3階の学生展が初日。休日ということもあって、結構人手があった。他の階も展示準備完了。いつもながら見事な展示。決して手前味噌じゃないと言い切れる。そして地下にはプロジェクターで壁一面に動画を投影している。何度やっても、どこでやっても展示は「浮かれる」。楽しいを通り越して浮かれるのだ。浮かれるためにやっていると言ってもいいくらい。過去日記を見て思い出したが、2003年の11月に突如前触れもなく両目とも眼底出し、一時視力がなくなってしまった、結局翌月に3度の手術をすることになった。あの時ペンタックス645Zを買おうとしたのはAFだったから。マニュアルフォーカスのカメラが使えなくなり、当時はアシスタントにピントを合わせてもらっていた。あれから20年近く経とうとしているが、毎日のようにあの時目が悪くならなければと思い続けている。42歳、仕事が一番面白い時期で、なんでもやれる気力と体力があった。でもあの時、目を悪くしなければ仕事が忙しくてワークショップも続けていなかっただろうし、冬青とも出会わず作家活動もしていなかったはず。今日ルデコで浮かれることもなかったことになる。人生色々、あの時の自分に「大丈夫、まあなんとかなる」と言ってやりたい。

〈2004年11月24日の日記から〉

月曜日から3日間米沢に帰っていた。23日まで山形県立美術館で「牛腸茂雄1946-1983」をやっていたので帰省がてら見に行った。東京でやっていた時はチケットを関係者から送ってもらって楽しみにしていたのだが、台風やら自分の写真展やら、なんだかんだで見逃してしまった。見に行った人は皆「よかった」と口をそろえるので山形会場最終日に間に合わせた。牛腸茂雄は媒体を雑誌や写真展ではなく写真集にもとめた。1回より2回、2回より3回と、見るたびに心に沁みてくる写真だ。でも今回オリジナルプリントを見るにいたり、その美しさにまいってしまった。牛腸茂雄が没後20年たって再評価され、もう一度プリントを見ることができる機会があったのは幸せだった。休日なのに人が少なかった。残念だがゆっくり見ることができてよかった。今年一番の写真展だったと思う。図録を購入。テキストもしっかりしていて、ベタ焼きもあった。1泊は母のところへ、もう1泊は駅前のホテルへ。今回中学時代に一番仲のよかった友人と25年ぶりに再会できた。大きく笑う友人の目じりに深い笑い皺ができた。それを見て彼の25年が見えたような気がした。43歳、大変だけど楽しくやっているよ、と言っているようだった。友人は酒を空けるたびに「今日は本当に幸せだ」と言った。僕もそのとおりだった。

晴れた

昼=屋久島定食(飛び魚の干物と刺身)/夜=「煉瓦屋」の焼肉

ずっと雨だったのに、出発の日に快晴となった。でも今回の屋久島フォトフェスティバルは今までで一番楽しめた。7年ぶりにポートフォリオレビューも受けたし、懐かしい顔にもたくさん会えた。毎日美味しいものも食べた。

3分動画を3本撮るというミッションはやってみるとかなり難しい。今までは外で撮るのはインタビューくらいだったので、人物を追いかけていればよかったが、人物抜きで動画を成立させるのはかなり大変。やったことがないから3分のイメージがつかめない。ワンカット5秒としても、3分間で36のシーンを撮る必要がある。写真で36カットなら造作ないのに、動画となると全く勝手が違う。動画だと、もう一回「下手くそ」を経験できる。今回の屋久島撮影で、1テラのSSDがいっぱいになった。帰ったら即編集だ。

 

<2021年11月21日の日記から>

ルデコ搬入を来週に控えて学生がひとりやってきた。何も手に付かない状態らしい。とにかく今考えていることを話してもらう。それを僕は紙にマジックで書きつけていく。言葉だと流れていくことが文字にすると引っ掛かりが出てくる。「これってどういうこと?」と言葉の意味について質問すると、なんとなく言葉を選んでいることに本人が気づいてくる。携帯でその語義を調べてもらい、本来どのような意味合いを持つかを話していった。例えば「記号」だったり「主体」だったり。ちょうど今週の美術史講座が現代思想の回だったので、そこで出てくることが、今抱えている課題と符合したのでちょうどよかった。まさか哲学や現代思想がこんなに役に立つものだとは思ってもいなかった。自分が学生時代、そういうことを馬鹿にしてたよなあ。もったいないことをした。1時間近く話していたら、急に霧が晴れたような顔つきになった。何かが変わった感じが伝わってくる。相談を受けていてこの瞬間が一番楽しい。

<2005年11月21日の日記から>

もうライカなんていらない。大きいし、重いし、ピントが見えづらいし、ヘキサーがあれば十分。ヘキサーは、レンズもいいし、マニュアル露出もできるし、サイレントモードまでついている。ヘキサーは、ファッション写真家のピーターリンドバーグも愛用している。撮影時には3台のヘキサーを首からさげ、フィルム交換ならぬカメラ交換で撮影していた。リンドバーグにあやかり2台目を探していたら、初期型ヘキサーブラック(今僕が持っているのは後期シルバータイプ)が安く手に入った。あるカメラが気に入ると、どうしても2台欲しくなる。ハッセルもローライもマミヤもシノゴにいたるまで2台づつ揃えた。白と黒のヘキサーを前に満足していたら、もう一台小さなカメラがでてきた。ライカCLだ。内蔵の露出計が壊れ、角の一部が軽くへこんでいるがシャッターの調子はいい。塗装もまだきれい。買うつもりはなかったのだが、値段が安いのと、形の良さにやられてヘキサーとともに買ってしまった。久しぶりに妄想がふくらむ。ヘコミをたたき出してもらい、メーター用の腕木を取り外す。そうすることで沈胴式のレンズや後が出っ張っているレンズも使うことができる。レンズは付いていないので、かえって楽しみが増えた。標準でいくのか広角でいくのか、21ミリあたいもいい。空シャッターを切りながらあれこれ思いをめぐらす。秋の楽しみがひとつできた。

7度目の屋久島

朝=モスバーガー/夜=パーティ

屋久島3日目、朝起きると前夜から降り出した雨は激しくなってきた。2日目に山に入っておいてよかった。屋久島では、雨は雨で緑が映えるので、動画撮影は順調。3分ものを3本作る予定で、2本くらいできた。「2BChanne」用には今回の屋久島国際フォトフェスティバルグランプリの柏田さんのインタビューが撮れた。

僕は4日目にポートフォリオレビューを受けるので、許可が出たらその様子も納めたい。

島に来てからは毎夜パーティ。数年ぶりにフランスからやって来た写真家やオーガナイザーにも会えて、お酒片手に回遊する久しぶりの感覚。今回はお手伝いもせずにフェスティバルを楽しんでいる。

 

<2021年11月19日の日記から>

先日TIP主催のフォトマーケットに出店した時に『womb』という女性数名で作っている写真の同人誌を購入した。特別号ということで内容が濃い。その中で写真評論家の鳥原学さんが「ロマン主義の終わりに」という文を寄せていて、これがとても面白かった。ちょうど自分の中で近代が気になっていたのでこの話はドンピシャだった。なので、すぐに鳥原さんに連絡して2BChannelで話を聞かせてもらうことにした。こういう時、小さいながらもメディアを持つことのメリットを感じる。そういうわけで、本日、鳥原さんに来ていただいたのだが、じっくり話をするのはなんと10年ぶりだ。その時は海外の写真の動向を聞いのだが、「アメリカ文化史」という分厚い本を勧められた。その中でアメリカ政府は表向き、アートに介入せず無税にすることでバックアップする政策をとっていることがわかった。この本を読んだことがきっかけで、経済とアートの結びつきを考えるようになり、美術史と並行して経済史を勉強するようになった。今回のインタビューは90分を超え、その後も食事をしながら計3時間に及んだ。終了後すぐに仮編集。これはかなり貴重な話が聞けた。日本の写真文化がどのように現代写真に繋がっていくのかを断片ながら知ることができる。脱線しながら実は大事な話に繋がっていくあたりさすが写真評論家。

<2010年11月19日の日記から>

青森から帰宅。日記を見たら10日間も更新があいてしまっていた。twitterにはちょこちょこ動向は書いていたけどね。前回書いた渋谷西武の写真イベントは1回戦は僅差でデジタルカメラマガジン側の勝利。わずか3票差。つまり好き好きで写真を選ぶと好みは分かれるものってこと。以前ワークショップのグループ展で、「気に入った写真の下に銀丸のシールを貼ってみてください」と来場者全員にお願いしたら、見事に票が分かれた。当初は特定の写真に集中するかと思っていたのだが、僕の予想は大きく外れた。その後数回にわたってやってみたのだが、いずれの回も票がほぼ均等に近いくらいに割れた。あの実験は写真を見る上で非常に面白い経験となった。今週は月曜日の撮影の仕事を終えると火曜日朝一番の新幹線で再び青森へ。今回ラッキーだったのは「ショートトリップ」という撮影企画があり「どこか行きたいとこない?」と依頼があったので「青森!」と言ったら通ってしまった。ショートじゃないような気がするけどね(笑)4日間の内、2日間を企画用にGRD3で撮影。残りの2日間をローライにモノクロを詰めて撮影した。前回で馴染んだせいか今回は2日間で12本も撮影できた。2日間GRDで撮影したのもよかったのかもしれない。撮っているうちにどんどん気持ちがのってくる。12本も、と書いたが枚数にすれば144枚。デジタルで撮っている人から見れば10分くらいの枚数だな。でもその144枚から作るプリントが楽しみだ。「どこかへ行って撮る」というのがだんだんと慣れてきた。違うな、思い出してきた。とにかく今は早く次の場所へいきたくてしょうがないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋久島でもパンパン

朝=鯛の炊き込み雑炊/夜=菊と胡瓜の和もの、むかごの素揚げ、ピーマン炒め、石焼ビビンバ、豆腐のスープ

「2BChannel」の動画編集や取材、それに本の原稿書きでパンパンの日が続いている。この日記は10日間ぐらい休んでしまったら、サクサクと書けなくなってしまった。今も何度も書いては消してを繰り返している。年末までに書籍の原稿を終わらせてすっきりと新年を迎えたい。まだ1/4くらいの状況。気はせいても1日に1本しか書けない。

そんな中で6日間屋久島へ行ってくる。最後に行ったのが2017年だったから5年ぶり7回目。今回も屋久島フォトフェスティバル。ポートフォリオレビューも受けるしワークショップにも参加するつもり。そしてそれをもれなく動画にする。ネタは満載。ちょと心配なのは、この2年で多くの飲食店が閉めてしまったそうで、ご飯を食べるところが激減していると聞いたこと。なんとかなるだろうけど、馴染みになってたお店がないのは寂しい。

今回の機材は動画メイン。ソニーFX30とZv1-Fがメイン。それだけで十分なのだが、シグマfp Lのレビューという仕事をもらってしまったので、それも1台追加。静止画編と動画編の2本の原稿は書き上げたが動画のサンプルが「2BChannel」で撮ったものくらいなので、屋久島で撮ることにしたのだ。ということで、屋久島も予定がパンパンになった。

 

<2021年11月17日の日記から>」

冬青で打ち合わせ。編集を手伝っている写真集の印刷は冬青の髙橋「元」社長にお願いすることにした。「元」というのは後で説明します。来年2月の頭に出版したいというリクエストに応えるために、かなり厳しい日程調整をしてもらうことになった。印刷所とスケジュールを確認してもらいながら、何とか目処がついた。現在、「元」社長は数冊の写真集を抱えていて、そこへねじ込んでもらった形だ。さて、なぜ「元社長」なのかというと、11月をもって冬青社の社長を交代したのだ。以前からその動きがあって、一度は他の人が社長になったのだが、今回再度社長交代となった。なのでもう「高橋社長」とは呼べなくて、呼び名にみんな困っている(笑)。ギャラリー冬青もAとBに分かれ、これまでの冬青はB、新しくできたギャラリーが冬青Aとなった。そしてまだ会っていないのだが、新社長は26歳の女性だということだ。ついに冬青は完全に代替わり。これで僕はこのまま残るのか、離れるのかを選ばなくてはならなくなった。打ち合わせが終わってから冬青B(今までの冬青ね)でやっている青木弘さんの展示をゆっくり見る。昨年青木さんには「2BChannel」でインタビューをしている。中央アフリカを撮影している写真家で、いま日本でいちばん中央アフリカに通じているんじゃないかと僕は思っている。昨年まではライカQを使っていたが、今回はライカM10モノクロームにアポズミクロン50ミリをつけて撮影。それをデジタルネガに起こして、バライタプリントしているのだが、これが見たことのないようなプリント。これが究極なんじゃないか思えるモノクロプリント。ユージン・スミスもびっくり。青木さんに「アポズミクロンってそんなにいいの?」と聞いたら「全然違います。他のレンズを使う気になれないですよ」とのこと。100万円するレンズを120万円するボディにつけて紛争地に行くんだから、青木さんの肝っ玉は相当に太い。アフリカを最高の形で残すという使命がそうさせるんだろうな。

<2009年11月17日の日記から>

Windows7のOSを買うかどうかをヨドバシで悩む。プロフェッショナル版だとマシン1台にしか対応しないが、ホームだと3台までOK。VISTAのOSがメインマシンと小型ノートに入っているのでどうしても新OSがふたつ必要。店員に相談したらホームをひとつ買ってもうひとつプロフェッショナルへのアップグレード版を買うのがいいと薦められる。フォトショップもCS3から4に移行したいし、ノートのメモリーも欲しい。なんてことを考えているのは楽しいのだが、よくよく考えると今今じゃなくてもいいという結論になるので、ちょっとつまらない。でもいつまでもVISTAというのも考えものだし…。北海道の友人と新宿で会う。お茶のみついでにラッキーカメラに寄る。フジのGF670が中古で置いてあるという噂を聞いていたからだ。フードとケースがついて168000円。新品が19万円弱だから微妙。このカメラは新品で買える最後の新製品中版カメラになりそうだから、どうせなら新品でいきたいものだ。来週までに東京の写真を6ページ分撮影しなくてはならないのにこの天気じゃね。フィルムとデジタルのどちらにするか悩む。デジタルはフォトショップ講座を受けたせいで、使いたくてしょうがない状態になっている。いままで「触ったら負け」というのが持論だったが、近頃は「触るのもありかな」となってきた。先日仕事で撮影したバーでの人物撮影は、バーの雰囲気を残しつつ人物を出すということが出来て満足。まるでネガカラープリントをするような感じでフォトショップを使うことができた。考えてみればネガを積極的に使ってきた理由はポジではできない暗室での後処理にあったわけだから。デジタルといえばEOS 7Dは本当にモンスターマシンだ。この性能がこの価格でいいのか? と疑問に思うほど。近頃ニコンの影に隠れ気味だったキヤノンだったがこの1台は凄い。EOS7DのボディとGF670のお値段はほぼ一緒。買って買えないことはない値段の設定はさすが。

 

 

 

パンパン

朝 お雑煮

夜 玄米炒飯、豚と野菜の炒め物

 

しばらく毎日書いてきた日記ですが、書籍の書き下ろしの締め切りが迫っているほかに、2BChannnelの収録、写真集再版、来年2月の写真展の準備、そして来週の屋久島フォトフェスティバルと予定がパンパンになってしまったので、しばらくこちらは毎日更新をお休みします。

 

「芸祭」

朝=あんかけうどん、ゆで卵/昼=カキフライと焼肉の定食/夜 =マグロ丼

3年ぶりに日大芸術学部の学園祭「芸祭」が行われるというので行って見た。そこはYoutuberなのでカメラの取材許可は事前にちゃんと取った(笑)。

鈴木麻弓さんがいまでは准教授なので、学内展示を案内してもらう。60組以上の作品がある中で、3組に与えられる奨励賞を受賞していたのは、すべて空間展示のものだった。そうなると、来年以降はもっと空間展示が増えてくるだろうな。もうその流れは覆せないだろう。ひとり面白い作品があったので「今回の2B賞だ」と鈴木さんに伝えてもらうことにした。「芸祭」の様子はいま編集中。近々「2B channel」で公開します。

江古田は変わったような変わってないような。ここを離れて4年だが、まだ懐かしいという感じではない。「ABC」という定食屋のランチは美味かった。

 

<2021年11月5日>

プロジェクター計画その2。LG製の短焦点モデルは、小さくて良いスペックを持っているのだけど、台形補正が難しすぎてギブアップ。超ワイドレンズを使っているのでほんのちょっと動いただけで周辺が盛大に歪んでしまう。LGを返品し、再度購入したのがXCIMIという中国製のコンパクトモデル「ELFIN(エルフィン)」。Youtubeで調べた結果、どうやら現在小型モデルの中で一番評判がいいようだ。国産のエプソンにしたかったが、10万円以下で希望に該当するものはなかった。妻が「絶対に小さいやつ、暗くて不鮮明でも構わない。ただリビングに何となく映像が流れているようにしたいだけ」とかなり明快なビジョンを持っている。そこで前回LGにしたのだが失敗。僕はそこそこ良いのが欲しかったが断念。そこでXGIMIのエルフィンということになった。今日届いたので早速設定してみた。まずは僕の仕事部屋で試してみたら、設定も簡単で、カーテンを閉めればかなりクリアに見える。宣伝でいうほど自動台形補正は効かないが、まあまあ使える。音がいいと聞いていたが、それもまあまあ。全てにおいて70点の製品だった。つまり不満はない。プロジェクターの場所をリビングに移しても、まあまあいい感じに映る。おそらく寝室に設置するのが一番いいような気がする。薄暗くして「何となく」映像を見るのにちょうどいいはず。

 <2009年10月5日の日記から>

グループ展終了から1週間。展示が随分と昔の気がしてくる。昨日の日曜日は事務所も静かなもので、午前中の英語の時間が終わったら、とたんに静かになった。なんだか平和な秋の午後。暗室に入っていたひとりが「これカメラを買って初めて撮ったネガなんですけど」とベタを見せてくれた。あれ? なんか違う。いつも見ているベタの調子とまったく違う。6×6センチのサイズなのにその中のトーンが全部見える。輪郭がきっちりあってシャドーのディティールもはっきり見える。なんだこれ? こんな美しいベタ焼き見たことない。撮っているものは町のスナップで、特別凄いシーンではない。「何のカメラ?」と聞いたらフジの新製品GF670だった。66と67を切り替えられるフォールディングタイプのカメラ。世界限定5000台で発売されている。このレンズ凄いかもしれない。イメージで言うと35ミリの解像度を持った中版レンズといった感じ。シャープでしかも豊富なグラデーションがある。その後六つ切りにしたプリントを見たが、やっぱり凄い。大四つに伸ばしてみたいと思わせる。なんだか凄いレンズ見つけてしまった。マミヤ7ともマキナとも違う。実に気になる。毎週日曜日にやっている英語のクラスで、初級過程終了のお墨付きをもらった。1年半近くやって第一段階終了。横で見ていた人が「随分話せるようになりましたねえ。堂々としてる」と驚いていたが、実は中身はさほど向上していない。ただ喋るのに慣れてきた。最初のように思考が停止して悪い汗が出ることはなくなった。会話を続けようと思えば1時間はなんとかなる。ただし、言っていることはかなりでたらめ。仮免はもらえたので次は路上教習。ワークショップ30期にはドイツ人の女性が参加する。

スチールと動画

朝=駅弁「牛肉ど真ん中」/昼=カフェ/夜=美味いマキ飯いろいろ

午前10過ぎ、電車からリニモに乗り継いでジブリパークに到着。プレスパスをもらってから、セレモニー会場になっていた「ジブリ大倉庫」をぐるっと回り、11時半には「メイトとさつきの家」の前まで行き、12時オープンを待っていた。メインセレモニーが終わる時間に合わせているので、誰もいないはずだと思ったのだ。読みは当たり、しばらくの間、家の中を独り占め。忠実に再現された家は、思ったよりかなり広い。住みやすそうな間取りで、光がたくさん入ってくる。ああ、こんな家に住みたい。2005年に開かれた「愛地球博」に合わせて作られたので17年経っているわけだけど、もともと昭和の設定だからコンテンツ古くならない(笑)。今回、ジブリパークオープンに合わせてできたのはメイン会場の「ジブリの大倉庫」と、「耳をすませば」のエリア。今後拡大していくのだそうだ。しかしこの3箇所を見ただけで1日があっという間に過ぎてしまった。大倉庫の映画館でやっている短編アニメがとてもよくて感動してしまった。

肝心の撮影だが、X2DとZV1-Fの両方を同時に使うのは難しかった。操作は何の問題もないのだが、静止画と動画では使う頭を違うので、集中力に欠けてしまう。慣れの問題というより、根本的なことなのかもしれない。

 

〈2021年11月1日の日記から〉

昨日のブックフェアは暖かくて気持ちのいい日だったが、今日は冷える。ついに石油ストーブが出てきた。毎度言うけど、寒いのは嫌いだが石油ストーブは好き。あの気持ちよさはエアコンでは味わえない。朝方に投票を済ませようと思ったら長蛇の列。かなり時間がかかりそうだったので、夕方にすることにした。選挙になると楽しみなのが、鈴木心がYoutubeでやっている「選挙ポスターから見えるポートレート撮影術」の動画。これは毎回本当に面白い。選挙ポスターを1枚1枚見ながら検証していく。ライトはどの位置で、どこの角度で打っていて、背景と被写体の距離だとか、ポスターの色の配置や、顔の向きまで言及している。レタッチ、解像度、ピントの話も面白いというか、かなり突っ込んでる。これ、撮った人が見たら凹むなだろうなあ(笑)。そこで僕も改めて選挙ポスターを見た。僕の選挙区で一番良かったのが自民党の石原のぶてる。お金をちゃんとかけている感じ。意外とひどいのはなかった。でもポスターの色使いとか、フォントとか、鈴木心さんの動画を見たことで気になってきた。選挙ポスターを見る新たな楽しみが出てきた。

<2007年11月1日の日記から>

フォトビエンナーレ quai photo。今日でパリ4日目。朝7時でもまだ真っ暗だ。パリへは定刻どおり到着。バスでアパートがあるオペラへ。今回は1週間単位で借りられるキッチン付のアパート。ひとりで暮らす分には十分な広さがあり、バスタブや洗濯機もある。外食だと1食2千円はくだらないヨーロッパでは、キッチン付はありがたい。パリの中心であるオペラ座から徒歩2分で9000円だ。物件は「パリ生活社」というサイトで申し込んだ。さて、肝心のオープニングパーティだが、あれほど着るものに悩んでいたが、結局ヨーロッパ人は黒は着ているものの、ラフな格好も多かった。そしてそこで初めて今回のケ・ブランリー美術館主催フォトビエンナーレ「quai photo」の趣旨が分かった。世界35カ国から70名の写真家を選んでいるが、アメリカ、フランス、イギリスなど写真先進国以外のアフリカ、アジア、南米、中東を中心に選んでいるのだ。世界で埋もれている才能を発掘紹介するのが目的だということだ。中国、インドからの参加も多い。数十名のキュレーターによって各国から写真家をピックアップしている。日本人は僕ひとりだけだった。「日本は写真の先進国のひとつだ。だから我々は日本からひとり選びたかった」と言っていた。それがアルルでたまたま引っかかった僕なわけだ。パーティ当日は朝9時半集合だったのだが、あいにくの土砂降りで予定されてした美しい庭園でのパーティが中止になってしまった。テレビなどの報道関係者が取材にきていて、ゲストで来ていた文化大臣にインタビューをしていた。アルルでは言葉が思うように通じず大変だったので、パリでは現地に住む女性に通訳をお願いした。おかげでいろいろなことがわかり楽しむことができた。

さて、僕の写真はいったいどこに写真が展示してあるのかと思えば、なんとセーヌ川の橋の上。カプセル状の展示ブースに5点のイメージが収まっていた。すごいのはそのロケーション。写真の向こう側にエッフェル塔が見える。プリントはアルミの板に焼き付けてる。インクジェットなのかと聞いたら「シルバープリントだ」ということだった。トーン、濃度、解像度ともに十分満足のいくものだった。雨に濡れてもダメージはなく、夜になるとカプセルの中の照明でライトアップされる仕掛けになっている。写真の横にはタイトルと作者名、それに選んだキュレーターが、写真から感じ取った、きちんとした長文を寄せている。アルルで僕を今回のビエンナーレ関係者に紹介してくれたキュレーターに、「こういった形の展示は初めてだと思うが不満はないか?」と聞かれたが、「とてもいい展示だと思う。ありがとう」としか答えられなかった。最初に「屋外のでの展示だ」と聞いたときには正直、素直に喜べなかった。ただボードに貼り付けられただけの展示なのではないかと思っていたからだ。僕が見ている間にもたくさんの人が楽しむように写真を見てくれている。オープンスペースのメリットと、作品の質の維持がきちんとなされている。今まで展示はそのスペースにもっとも合った状態のものを、と言ってきたが今回の展示はまさに見本のようなものだった。昼食はカフェに用意されていた豪華なビュッフェで、前菜からデザートまですべてがおいしかった。その席で目の前に座ったおばちゃんと話をしていたら、その人はニュージーランドの有名な写真家で大学の教授でもあり、彼女の作品は今回美術館内で特別ブースを使い展示されていて、その後フランス中を「ツアーする」と言っていた。てっきりビエンナーレの参加者だと思っていたらすごい人だったのだ。持っていた写真集「traverse」を見せると、隣に座っていたご主人が気に入ってくれてずっと見ている。これは美術館のショップで買えるのかとまで聞いてきた。彼女の写真集を日本に送るから「traverse」を送ってくれないかということになった。昼食後もずっと美術館内で過ごすことができ、その間にフランスの写真家が移動式スタジオ内でポートレートを撮ってくれるフォトセッションがあった。僕は小道具としてシノゴのカメラを持ち込んだ。撮った写真はその場ですぐにプロジェクターにかけられ大型スクリーンで見ることができる。写真は後日、展示されるということだ。夜は美術館内でカクテルパーティがあった。なんの合図もなしに6時から始まり、9時になると、これまた何の合図もなしに終わった。これがフランス流? パーティの間、持って行ったリコーのGRDに21ミリワイドコンバージョンレンズをつけたものを首から下げていると皆、興味津々寄ってくる。口々にこれはいい、どこのだ、ちょっと貸して、レンズが付け替えられるのか、いくらだと、どこへ行っても変わらないカメラ好きの話になる。しかGRDは驚くほど食いつきがいい。意外だったのは誰もGRDの存在をしらなかったことだ。日本での人気を考えると驚きでもある。こうしてパーティは無事終わった。感じたのは、ただ写真を集めて展示するのではなく、ひとりひとり個別のブースを作って、きちんと紹介しようという作者への尊敬が見えることだ。そしてパーティの趣旨は「場所を提供しますから、この場所でたくさんの人と出会ってください」ということだった。展示された写真5点は美術館に収蔵される。契約では1点につき何がしかのお金で買い上げてくれるとある。これからパリに行くたびに、あの美術館に自分の作品があるのだと思えるのは、とても大きな喜びだ。

遠足気分

朝=味噌汁、ゆで卵/昼=「太田」の和定食/夜=お雑煮

午前中、カメラホリック編集部からハッセルブラッドX2Dと55mmを受け取る。31日に名古屋ジブリパークを撮影して、12月発売の誌面に掲載することになっている。ジブリパーク内覧会の招待状をいただいた時はローライフレックスだけでのんびり撮ろうと思っていたのだが、仕事になってしまった。でもいい仕事だ(笑)。合わせて会場内の撮影の様子を「2BChannel」の動画にしようと思っているので、ZV1ーFと小型ジンバルも用意。のんびりしている場合ではなくなった。「メイとさつきの家」はずっとみたいと思っていた。テーマパークではないそうだが、こだわりはすごいらしい。ただいま遠足前日の気分で機材をパッキング中。

<2021年10月31日の日記から>

T3フォトマーケットに参加中。ひさしぶりに人がワサワサしていた。懐かしいなあ、この感じ、今年は天気が良くてポカポカと暖かったおかげで人手も多く、みんなの本の売れ行きも良かったようで、和んだ雰囲気だった。本が売れないブックフェアは殺伐としてくるものだ(笑)。1万4千円の売り上げがあったので、それを使い切って会場内で本を買ってきた。結果、持って行った自分の写真集は売れたのに、帰りの荷物の量が増えている。ブックフェアに参加するときの自分の約束事みたいなもので、売れた分は買うことにしている。会場ではたくさんの人から「2Bchannnel見てます」と声をかけられた。我ながら立派なYoutuberだな。写真展、出版、ワークショップと今までいろんなことをしてきたが、Youtubeが一番反応がある。意外と性に合っていたのかと今更思う。今回仕入れた本は、今度の配信のいいネタにもなる。下にある日記を書いた頃は50代半ばで、その年に写真集「demain」を出している。写真を撮る意味は何かをずっと考えていた。それまでの「記録」「伝える」だけでは写真を語れなくなったのは明白だけど、それに変わるものは何かを模索していた。「カメラは祝福の装置」というのは奇抜だが、何だか今読んでも納得してしまう部分がある。

<2017年10月31日>

時間ができるとエイトバイテンという大型カメラで江古田を撮影している。フィルムの大きさはB5ノートくらい(20センチx25センチ)もある。撮っているのはごく普通の駅前とか商店だ。何か特別なものではない。来年この町を離れることになったので撮りたくなった。ノスタルジーの感情とは違う。カメラも重いが三脚も重い。カメラをセットし た状態で持ち歩くとバランスが悪くてふらふらする。担いでいると鎖骨にぶつかって痛くなるし、翌日は体がギシギシしてくる。フィルムコストは1枚あたり1600円だ。笑ってしまう。自分の暗室ではエイトバイテンフィルムの引き伸ばしができないので、プリントはベタ焼きになる。ネガフィルムを直接印画紙に載せて上から光を当てるだけ。そんな大きなフィルムを使ったからといって仕上がりがとんでもなく素晴らしいかというとそうでもない。フィルムの質が悪かった40年前ならいざしらず、今なら67カメラ(6センチx7センチ)からプリントした方がエイトバイテンのベタ焼きよりずっときれいだ。つまり仕上がりのクオリティを求めて使っているのではない。多くの写真家がいまだに大型カメラを使い続けている。軽くて使いやすくて性能がいいカメラが普及しているのにもかかわらず、大きくて重くて使いづらいほうをあえて選んでいる。そういえば僕がポートレートを撮ろうと思った時も、最新のカメラの方が仕上がりは良いと分かっていながら出来るだけ使いづらいカメラを使おうとする。ストリートスナップを撮る写真家も目立たないカメラではなく、大きくて使いづらいカメラを選ぶのだそうだ。長いこと路上を撮っている人ほどその傾向にあると聞いた。今なら音がしないカメラもあるのに使おうとはしない。なぜ多くの写真家は面倒なことを好むのだろうか。そこには現代アートのロジックとは違うものがあるように思えてくる。「写真家である」と自らを規定するものにとって、カメラは表現に使う便利なツールとして利用しているのではなく、祭事のための儀礼の道具と考えているのではないだろうか。中国に「賦」と呼ばれる詩の形がある。そこにメロディをつけると唱歌と呼ばれるものになる。小学校で習うやつだ。

「早春賦」 

春は名のみの 風の寒さや  谷のうぐいす 歌は思えど

時にあらずと 声もたてず  時にあらずと 声もたてず

氷融け去り 葦はつのぐむ  さては時ぞと 思うあやにく

今日も昨日も 雪の空  今日も昨日も 雪の空

春と聞かねば 知らでありしを  聞けばせかるる 胸の思いを

いかにせよと この頃か   いかにせよと この頃

ただただ春の状況を描写しているだけだ。作者の我はそこにはない。この詩はなんのために作られたのか。春への祝福である。冬が終わり春の到来への祝福の思いなのだ。賦と写真は似ている。何も足さない、何も引かない。ただそのものを描写する。もうひとつ。

「ふるさと」  

兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川

夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷

如何にいます父母 恙なしや友がき

雨に風につけても 思いいずる故郷

こころざしをはたして いつの日にか帰らん

山はあおき故郷 水は清き故郷

これはただのノスタルジーなのか? 違う、ふるさとの山河を祝福している詩なのだ。失われたものへの追憶の感情だけではない。祈りすら感じる。そうか、僕が江古田を撮るのも、ポートレートを撮るのも対象への祝福なのだ。つまり写真家とは祝福を与える人たちのことなのだよ。そして時にそれは鎮魂であり、祈りとなる。決して対象を呪う装置としては用いない。だからどこか宗教的な要素を持ち合わせているように感じられるのだ。ただ生きるためではなく、よりよく生きるために儀礼や祭事は必要であり、そこには大がかりな装置が必要になる。簡便な儀礼というものは存在しない。そう思うとカメラのシャッター音は、お参りのときの柏手(かしわで)と似ている。パシンと響く音が対象への呼びかけとなるのだ。大きくて重くて使いづらいカメラを使うのは、祝福を与えるための儀式。僕はそう思うことにした。呪ったり呪われたりして生きていくのは御免だ。僕は頼まれなくとも写真を撮ることで勝手に祝福を与え続ける。写真を何かに利用したり、呪いの装置にはすまい。僕はひたすら祝福を込めて対象を撮るのだ。それでいいのだ。

庭に猫がたくさん

朝=タコの玄米パスタ/昼・夜=お呼ばれでワインでご馳走たくさん

学生の頃から40年間近くお世話になった方の家に妻と娘とで遊びに行った。道中からさっそくZV1ーFに小型ジンバルをつけて撮影してみた。先代のZV1の音の良さがそのまま引き継がれているし、発色もクリエイティブルックで細かく調整できるようになっていい感じに映る。手ぶれ補正は単体でも十分だと言われているが、実際に撮影してみると圧倒的にジンバルの方が安定している。

月曜日は、仕事で名古屋のイベントに参加するので、実際に使ってみる。動画はZV1ーFで、写真はX2Dを使う。

 

<2021年10月31日の日記から>

秋だからか? すぐにお腹がすく。朝6時にお腹が空きすぎて目が覚める。10月30日土曜日午前11時半より東京スクエアガーデン1階通路で「T3フォトマーケット」が開かれ、2B&Hで昨年に続き今年も参加。今回は気合を入れてあれこれ本を準備してます。『じゃない写真』『demain』特装版『traverse』『plana』と4種類を販売。コロナ前は毎年のように海外のブックフェアに参加していた。本が直接売れる喜びも大きいが、出店者同士の情報交換ができたり、思わぬ人と知り合えたりするのが面白くて参加していた。写真集は右から左へ売れていくような商品じゃないから、買って貰えると本当に嬉しい。

<2005年10月30日の日記から>

EOS5Dなんていらないとか、フルサイズは必要ないとか、ミラー式一眼レフは時代遅れだとか、数々の発言は取り消し。そのくらい5Dはいい。20Dとの差は歴然だ。雑誌などでの画質チェックでは出てこない部分での細部の作りがまるで違う。とにかくピントがいい。当たり前のことだが20Dを使っていて忘れていた部分だ。もう、仕事で35ミリのフィルムを使うことはないだろう。D60から始まったデジタルワークは、5Dで安定期に入ったように感じる。重慶で撮ったプライベートな写真をエプソンPX7500で出力してみる。付属のマット紙のため黒の締りはないが、ハーフトーンのつなぎがきれいだ。横幅60センチの大きさは見ごたえがある。出力したものを事務所の壁に貼り付けたらギャラリーのようになった。大きくすることで5Dの実力がはっきりした。いままでアナログでしか自分の写真を撮ってこなかったが、新たな絵筆ができたようだ。「日本カメラ」では審査する立場だが、自分が写真を発表する時には審査される立場になる。「米沢」の写真がまとまったので、メーカー系のギャラリーに応募していた作品が9月末締め切りで、10月末に発表だった。結果、落選。審査をしているから審査がどんなものかわかる。落ちたことで、自分の写真に迷うことはないし、取り組みへの反省もない。全ての人にわかってもらえるものを作っているわけではない。自分の写真を分かってくれるところを探すだけなのだ。とはいえ、期待が外れた失望は大きい。