質問に回答「アートと写真の関係性」

 

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先日、始めてzoomを使ってのオンライン講座「アートとお金」の配信してみました。おせじにもスムーズとはいきませんでしたが、問題点などがだいたいわかりました。

 

YouTube Channelでは、皆が早口で話をしているので、僕もだんだんそうなってきていると思います。でもオンライン講座はゆっくりやったほうがいいようです。

 

Zoomには、チャット機能があってコメントをつけられます。

先日もそれを使って視聴してくれた方とやりとりをしていたのですが、その中で「写真は撮って、撮って、撮りまくるのが早道だと言われますが、美術史を学ぶ意味はなんですか?」という質問を受けました。

 

たしかにその通りなのですが、「作品を制作する」ということで考えていくと、フィジカル(肉体)とロジカル(論理的という意味)、そのふたつが必要になります。

 フィジカルについては、“撮って撮って撮りまくって”機材が体の一部になる必要があります。「好きなように撮ればいいんだ」という話もありますが、たとえばピアノを前にして「音楽なんて好きなようにやればいいんだよ」と言われ、何も知らずにピアノを弾いても全然楽しくないでしょう。

 

楽しく演奏するには、その楽器に慣れる必要があります。僕はいまウクレレを弾いていますが、毎日毎日弾くことで、徐々に体に馴染んできました。

 

カメラも同じで、フィジカル的要素がすごく強い。仕事で撮影をする場合でも、その場の状況を把握して、瞬時に露出やアングルを決めなくてはなりません。慣れないカメラだと使い方が分からず思うようには撮れませんよね。

 

撮影行為はフィジカルなんです。

アメリカを代表する写真家アレック・ソスは、「カメラの操作にはマッスルメモリーが必要。筋肉に記憶させるのに10年かかった」と言っています。たしかにフィルム時代はどんなセンスの持ち主でも10年かかりました。

 

僕も本当の意味でカメラを使えるようになったのは、35歳のとき。写真の大学で4年間勉強したあと、新聞社で3年、その後フリーランスになって10年たった頃でした。

いまはデジタル時代なので、3年から5年もあれば習熟できると思います。

 

カメラを自由に扱えるようになるのは、楽器を自由に弾けるようになるのと一緒。そこから人前で演奏することになるわけです。

 

ただ、音楽と写真がちょっと違うのは、音楽は耳から入ってきて脳にダイレクトに届きますが、写真は視覚なので、画像の把握に実はかなり複雑な処理を必要とします。音楽のようなダイレクト感は薄く、脳は画像を理解しようと働くんです。

 

そのため作品制作には、「テーマ性」や「コンセプト」といった、理解を助けるためのものが要求されるわけです。

 

とはいえん、別にそんなのなくてもいいんです。写真は写真ですからね。でもそれだと自分勝手なものしか生まれない可能性が高い。可能性です。

 

ひとつの解決策として、自分は撮るだけで、あとのロジカルな部分はキュレーターにお願いするという方法もあります。でも誰もがキュレーターにみてもらえるわけでもないですし、そもそもキュレーター(日本では学芸員と呼ばれる方々)といった、その筋の専門家と会っても話が通じないでしょう。

 

キュレーターだけでなく、編集者やギャラリストでも同じです。誰かのサポートによって作品ができることは多々あります。たとえば赤々舎の姫野さんのような人に認めてもらえれば、作品が形になることもあるでしょう。

 

でも自分勝手に撮ったものは、おそらく彼らの目にはとまりません。彼らと会話をすることもできないでしょう。

 

それを知るには、天才的な表現者ならともかく、ロジカルな部分を増やすしかないと僕は考えています。

 

そのロジカルな部分を支えるのが歴史です。これは間違いないです。

時代はどう動いているのか知るためには、その前の時代を知る必要があるし、その一歩前の時代を知るのは、その前の時代を知る必要がある。

 

ロジカルな部分を理解したからと言って、決していいものが作れるわけではないですが、フィジカルだけに頼ると、危険なのが「昔はこうだったから、今もこのやり方が正しい」と思ってしまうことです。

 

撮って、撮って、撮りまくってフィジカルな部分を鍛え、さらに美術史を知ることでロジカルな部分を鍛える。海外の大学では当たり前に行っていることです。

海外の方が偉いわけではありませんが、写真表現は、やはり欧米を中心に廻っています。

 

2020年、木村伊兵衛賞を受賞した横田大輔さんは、フィジカルとロジカルのバランスがとてもいいと思います。そのへんのところは『じゃない写真』で詳しく書いていますので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

 

写真が好きで、好きで、何十年もやってきて、それでも全然最近の写真は分からないとい時期が僕の中にありました。

 

それを救ってくれたのがロジカルの強化だったんです。美術史って面白いですよ。