今日はシグマの「fp」と「dp」の話です。
知ってました? フィルム時代にもシグマはカメラを作っていたんですよ。主に海外輸出用だったのか、日本ではほとんど目立たず、周りに使っている人もいませんでしたが、デジタルカメラになって突然個性を発揮し始めました。いまでは特別な存在になっています。
2019年に発売された「fp」は「世界最小最軽量のレンズ交換式フルサイズミラーレスカメラ」と話題になっています。この大きさでフルサイズですよ。センサーはどうやって入れたんでしょうかね。
「fp」の名前の由来は「フォルテシモ・ピアニシモ」、様々なアクセサリーとドッキングさせてフォルテシモとしても使えるし、単体でピアニシモとしても使える、そういう二面性を持ち合わせるというコンセプトだそうです。
プロモーション動画を見ると分かりますが、まるで映画用カメラのようです。というか、立派に映画用。
写真も撮れる動画用カメラでもあるし、動画も撮れる写真用カメラとも言える。
この「fp」を使ってみたいと思っていたら、シグマファンの方にしばらく貸してもらえることになりました。彼は初代「dp」からシグマを使い続けている"フォヴィオンマニア”なので、「dpのほうが好きだな」と言ってました。
さて、「fp」と「dp」では何が違うかというと、センサーの構造です。フルサイズとか、APSとかの大きさじゃなくて元々の成り立ちが違う。
先ほど"フォヴィオンマニア”と言いましたが「dp」は「フォヴィオンセンサー」を搭載しています。この形式のセンサーはシグマだけで他のメーカーはすべて「ベイヤー配列」と呼ばれるものになっています。
その違いというのは、フォヴィオンはセンサーがレイヤー構造というか、立体的になっていて、ベイヤー配列は平面構成。
図を見てもらうとわかるけど、フォヴィオンはセンサーが上から青、緑、赤の順番に重ねてあります。
対してベイヤーは平面上に赤、緑、青のフィルターが貼り込んだセンサーが1:2:1の割合で並んでいる。この割合がベイヤー配列と呼ばれています。
お気づきでしょうか。ベイヤー配列の場合、例えば赤一色のものを撮った場合、赤のセンサーが反応するのは全体の5分の1でしかありません。
緑と青のセンサーは赤の波長に反応しないので、おかしなことになる。
でもそれを計算で補っているわけです。「赤と赤に挟まれた緑と青のセンサー部分も赤」という具合に考えるわけです。
メリットとして平面構成のため計算しやすく、処理も速い。
しかも現在のCMOSセンサーは省電力で高感度にも強い。
いいことずくめなので、シグマを除いたメーカーはべーヤー式を採用しているわけです。コンデジも、携帯もデジタルカメラはベイヤー配列です。
ちなみにこの“ベイヤー”というのは、コダック社の研究員の名前です。1976年にこの方式を発明しました。個人名がつくくらい画期的なセンサー配列だったんです。
いいことづくめのベイヤー配列に、唯一反旗を翻すのがフォヴィオンセンサーというわけです。正式にはフォヴィオンX3センサーと呼んでいるのかな。
もともとは「フォヴィオン」というベンチャー企業が開発していたセンサーを会社ごと買い取ったようです。それ以来ずっと育て続けている。
ベイヤーが計算で色を出しているのに対して、フォヴィオンはそれぞれのセンサーが色をキャッチするので、理論的な正しさがある。この三層構造はフィルムと同じです。
青の波長は青のセンサーが、緑の波長は緑のセンサーが、赤の波長は赤のセンサーがそれぞれ反応します。なんかすっきりするでしょう。
だから理系のおじさんが大好きなんです。
そしてフォヴィオンは圧倒的な解像感が得られる。これは使った人じゃないとわからないけど、本当にすごい。「dp」で撮ったものをパソコンで等倍にして「こんなとこまで写っている」とニヤニヤするんです。
RAWで撮ることが勧められているけど、クワトロシリーズからはJPEGでも十分感動できる。でも、しかし、残念ながら、問題が山積みなんです。
まず致命的なのは感度が上げられない。現在のベイヤーセンサーは感度を6400にしてもなんの問題もない。「fp」もそうです。
ところがフォヴィオンセンサーはいまだに感度400が限界。800にすると目に見えて荒れてきます。なにせ推奨値が200までですから。100と200しか選べない。ベイヤー配列とは、感度にして5段分のハンデがある。
実はこのフォヴィオンのようなレイヤー式のセンサーは、各社で研究はしていたようで、ソニーとオリンパスが共同で着手しているというニュースも流れていましたが、どうにもこうにも感度が上がられなくて断念したようです。
それに立体構造のフォヴィオンセンサーは画像処理の計算に時間がかかります。センサーが三層なためかバッテリーの消費も激しい。動画も撮れない。
ベイヤーのメリットはすべてフォヴィオンのデメリットなわけです。
それでも、一度でもフォヴィオンの味を知ってしまったら、もう他のカメラじゃ物足りなくなる。
そんなシグマ=フォヴィオンと思っていたところに、「fp」がでてきたわけです。しかも「fp」はベイヤー式センサーを積んでいる。
発表時にはフォヴィオン界隈で激震が走りました。
「フォヴィオン界隈って、どこだよそれ」って言われそうですが、シグマがフォヴィオンを捨てたって、みな大騒ぎでした。
しかも動画に力を入れているのは明白。実はここ数年、シグマのシネマレンズは動画業界で高評価を得ていて、当然の流れではあるんですが。
さてここで実際に「fp」と「dp2クアトロ」を使ってみました。便利だったのは両機のバッテリーは同じものを使えるということでした。
同じように撮っていて「dp2」がバッテリー切れをおこしたときに、「fp」はまだひとメモリ分余力がありましたが、バッテリーの持ちに関してはそんなに大きな差はありませんでした。
「do」も「fp」も、オートフォーカスがお世辞にも早いとはいいがたいですね。
さらに「fp」も「dp」も、止まっているものを撮影するにはストレスはほぼないのですが、動いているものにはあきれるくらい迷う。
「fp」の動画撮影で、ちょっと被写体が動くと迷ったあげくに大きく外すを繰り返します。瞳AFもついていますが、それを使わないほうが追随します。その辺の検証動画はYoutube にたくさん出ていると思うのでそちらをどうぞ。
動画撮影ではマニュアルを使うのが前提なんでしょう。動画のプロはマニュアルフォーカス、マニュアル露出、マニュアルホワイトバランスが基本みたいなとこがあるりますからね。
それと「dp」の場合は、少々遅くても「dpだからね」と我慢できます。
不思議なカメラです。
ホールディングに関しては、意外と近未来デザインっぽい「dp」のほうがバランスがいいと思いました。「fp」は世界最小最軽量のミラーレス機なのですが、質量は感じます。それも悪い感じではないけど。
今回「fp」には別売りのグリップをつけましたが、これがないと滑って落としてしまいそうです。
「fp」は許容範囲のレベルですが、「dp2クアトロ」の液晶モニターは晴れた日にはつらい。露出や構図がわからいときがあります。
そこで意外と役に立ったのが、「dp2クアトロ」専用の外付けファインダー。液晶ではなく、ただのガラスの素通しですが、こっちのほうが構図は決めやすかった。
露出モードをオートにすると、ほぼほぼオーバーに写ります。基本マイナス0.7から1くらいで撮っていました。
でも結局は、それも面度くさくなって、露出はマニュアルで撮ることのほうが多かったです。
色調は空を写すと顕著ですが、カラーモードがスタンダードだと「fp」のほうが若干マゼンダよりで、「dp」のほうがシアンぽい。どちらも深みのある色がでますね。
気にいったのが「fp」のカラーモード「シネマ」と「ティールオレンジ」。とくにシネマはちょっと黄色がかって、昔のコダックの発色。ティールオレンジは全体が青っぽくて、主要な赤と黄色が浮いてみえる。これは面白い。次回はポートレートで使ってみたいと思います。
「dp」にも欲しいと思ったら、ファームアップでJPEG撮影時に「シネマ」が選べるようになっていました。これも使ってみたい。
「fp」は動画と静止画がワンタッチで切り替えられて、表示される画面情報もまったく違うものになるジキルとハイド的な感じがあります。てっきり動画のほうがメインかと思っていたら静止画の解像感がすごくて驚きました。
「fp」で使っているレンズは、キットレンズの45ミリF2.8 。そんなに高いレンズではないのに、びっくりするほどよく写ります。
「fp」はベイヤーだからフォヴィオンにはかなわんだろうな、という思い込みがあったけど、レンズは小さいのにボディとのマッチングが最高にいい。「dp」と比べても遜色がないんじゃないか。
細かいところを見ていくと、たしかにハイライト部分の白の粘りは「dp」に分がありそうですが、全体的には似ている気がします。
今回はちょっと試しただけで追い込んでいないので、なんともいえないのですが「fp」は静止画でも面白い気がします。
ただ、フォヴィオンはある一定の条件下で爆発的な威力を発揮することがあるので、単純には比べられないんです。
実は周りの「fp」の評判がそんなに高くなくて、「どうかな?」と思っていたのですが、毎日触っているうちに徐々に愛着が出てきてしまいました。
動画を撮ってみても、あきらかにパナソニック「GH4」とは違う。もっとも、センサーサイズが4倍なわけですからね。
「GH4」での悩みのひとつが、ハイライトの描写なんです。ちょっとしたことですぐに白飛びしてしまう傾向がある。
さすがに「fp」ではそんなことはありません。粘るようなハイライト描写です。
動画性能だけでいうなら「ブラックマジック」のような専用機には及ばないだろうし、ソニーのAF性能は驚くべきものがあるけれど、おそらくこれからは“フォヴィオン愛”を語るように“fp愛”を語る人がでてきそうな感じです。