ニコン

僕が写真を始めた頃、つまり高校生だ。考えてみたら40年前じゃないか。

16歳のときにカメラの新製品広告が見たくてカメラ雑誌を買った。当時はカメラ自体が見開きで大きく掲載されていて、これがかっこよく見えたものだ。カメラは金属の塊で、見た目にもずっしりとした持ち重みのするものだった。

広告の定番は最高級機を中心にレンズやアクセサリーといった全製品が一堂に並べられたもので、顕微鏡から宇宙までカバーするそのラインナップは田舎の高校生の心を大きくくすぐった。

オリンパスOMー1を持って上京すると、周りはニコンキヤノンばかりで驚いた。20歳になるとオリンパスからキヤノンへと移り、以来ずっとキヤノン派だ。ニコンはどこか権威的で堅物のイメージがあって「二番手」だったキヤノンにしたのだ。

ニコンは仕事を始めた1年間だけ会社からの支給品で使っていたことがある。新聞報道でニコンは絶対的な存在だった。会社の機材ロッカーには高校生の頃雑誌で見たレンズがズラリと並んでいた。中にはひとりで持ち運ぶのが困難な超望遠レンズや、奥の方にはレンジファインダー機もあった。

個人支給品はニコンF2チタンモータードライブにF3P、28ミリと80-200のズームレンズ。300mmf2.8は標準レンズのようなものだった。

でも辛い事しかない新人時代だ。何かを変えたくて2年目からはカメラをキヤノンに変えた。だからといって状況は何も変わらなかったけれど。ニコンを見るとあの時の張り込みの日々を思い出す。



近頃はニコンからソニーに切り替えたというカメラマンの話をよく聞く。高級コンパクトデジタルカメを発売直前でやめたり、広告が男性中心だとネットで炎上していた。もうニコンの時代は終わってしまったんだろうか。

先日ニコンサロンに写真展を見に行ったときに、ショールに置いてあった新製品のD850を触ってみた。

ボディを握った瞬間、これは凄いものを作ったものだと驚いた。良いカメラに共通しているバランスと言えばいいのだろうか、ボディが手の中にきれいに収まる。

ファインダーを覗くとそれは確信に変わる。スクリーンに電気信号ではなく、実像そのものを見る幸福。デジタルカメラの中で最も美しいファインダーと言ってていい。

シャッターに指をかけるとオートフォーカスがスッと滑らかに動く。指先に力を入れるまでもなく、脳と連動しているかのようにシャッターが切れる。

ミラーレスカメラの優位性が語られて久しいが、明らかにD850は別次元のカメラだと思う。撮影したわけではないから発色とかは分からないが、間違いなくいいはずだ。なぜならボディだけ素晴らしいなんてことはないから。

ニコンってすごい会社なんだなあと改めて思った。40年の間、様々なカメラを使ってきた。それでも触っただけで驚くような一眼レフが作れる会社なのだから。