遺された写真を超えて

先週から鈴木麻弓写真展「Restoration Will」が曳舟のリマインダーフォトで開かれている。http://reminders-project.org/rps/ja/

3月11日はそのオープニングパーティーだった。知っている人も多いかと思うが、彼女の両親は宮城県女川の海沿いで写真館を営んでいて震災の被害にあった。だからその日は命日でもある。

会場には父親が遺したポートレートと、泥だらけで見つかった遺品のレンズで撮られたモノクロ写真。そして被害直後、実家の写真館の暗室を撮った写真が実物大に引き伸ばされていた。この写真が撮られているときに僕は彼女の横にいた。5月1日だったと思う。

その写真の横に今回の展示に合わせて作られた限定版写真集が置いてあった。いや写真集に合わせての今回の展示なのか。昨年、シュタイデルアワードに出していたダミーブックを東京アートブックフェアで見ていたが、今回の完成版はまったく違うものになっていた。饒舌さが影をひそめ、深く染み入るようだ。正直そのクオリティに驚いた。良いものを見た。残念ながら限定版で全数がすでに売り切れてしまっている。

鈴木麻弓は2000年に僕のアシスタントをしていた。僕は39歳、彼女は22歳か。それ以来彼女はずっと不肖の弟子だったが、ついに師匠離れをした。ギャラリストの後藤由美さんを始め、良い人達に恵まれたようだ。

僕の好きなものにホヤの炊き込みご飯がある。新鮮なホヤでつくると甘い香りがする。彼女のお母さんが毎年「近くで獲れたたものだから」と女川の海産物を送ってくれていた。炊き込みご飯はお母さんに教えてもらったものだ。

お父さんと最後に会ったときに別れ際「麻弓のことをくれぐれもよろしくお願いします」と言われたときの顔をはっきりと覚えている。

だから今回の写真展はどういう顔をして見ていいのか分からなかった。でもいい写真展だった。肩の荷が下りた気がした。いつの間に彼女は立派な写真家になっていた。