ワークショップ54期募集中です。

今回のアルルでは自分の展示で忙しくて公式の展示を 回る時間が少なかった。

カタログを見ると昨年と違い自分が知っている作家が少なかった。有名どころで目に付いたのは報道写真家のドン・マッカラン、ゲイリー・ウィノグランド、ウィリアム・クライン細江英公くらい。

1960年を中心にした雑誌メディアによるジャーナリズム写真と、対抗する構造での現代アート文脈の写真。それを明確にした構成に見えた。

アワードに選ばれた中には日本人作家として横田大輔が大型のインスタレーションをしていたのが印象的だった。

アワード受賞者は大きなブースを使って展示できるのだが、その中にレビューサンタフェで会った女性アーティストが展示していた。彼女と会ったことで現代アートと写真の関係性(http://d.hatena.ne.jp/satorw/20130621/1371784886)に気がつくことができたので、この展示はとても楽しみだった。

サンタフェでは拒食症を扱った作品だったが、今回は妊娠中絶の問題を作品化したものだった。女性特有の問題としては同じだ。

会場全体を使ったインスタレーションは写真だけではなく、映像、中絶器具等のオブジェ、音声、すべてを使っている。おそらく自分で撮った写真はほとんどない。そして中央には象徴的な巨大なキリストの絵が。

キリスト教においては妊娠中絶は罪になる。現在でも法律で禁止している国はあり、レイプによってできた子供の中絶を認めないということでニュースになったりしている。

アメリカの選挙でも候補者はその問題について是非を言及しなくてはならない。今でも違法な医療行為による妊娠中絶で多くの女性が命をなくしている。会場中央に針金のハンガーが山積みされていたが、そのような粗末な器具で堕胎している国がある。

日本では理解しえないことが、キリスト教国家では大きな問題として存在しているのだ。だからこそ展示でのキリスト像に意味がある。

歴史的に見て宗教とアートの関係性は深い。西洋の前提は初めにキリスト教ありき。厳密な約束事を壊す行為がアートとなるし、壊すものが目の前に存在している。

そしてそこから離れようとする行為もまた、現代アートなのだろう。

日本人が西洋でやっていこうとする場合、彼らが生きている前提の理解が必要になるはずだ。

彼女の展示は、会う人ごとに「あれ、見た?」と話題にのぼった。そして妊娠中絶についての話になった。サンタフェで彼女が言っていた「たくさんの人に作品のことについて話し合って欲しいの」は見事に実を結んでいた。

良い写真とは美しい写真という意味ではなくなってきている。考えるきっかけを与えるものであり、手段によっては自分で撮るだけではなく、見つけてきてもいいことになる。

日本人が持つ前提とは何か。価値観はどこから生まれているのか。どのように西洋と違っていて、どこで繋がっているのか。

環境も食事も宗教も躰つきさえまったく違う。ということは物事の捉え方もまったく違うことになる。

今回の アルルではそのことを改めて考えることになった。