音楽の陰影

会う人ごとに「写真と影の関係性」のことを聞かれる。レビューサンタフェの時の「現代芸術ってなんだ?」と同じ。

いつもならモヤモヤしたままで終わることが、レビューの場所にいて、写真に囲まれていると神経がピリピリしてきて感じることができるのかもしれない。

「陰影」は音楽で言えば「グルーブ(うねり、揺らぎ)」ということだと考えられないだろうか。

戦後黒人ブルースからロックが生まれる。ブルースの特徴のひとつと言えば「ウィーピング」いわゆる「泣き」だ。ブルースハープやスライドギターがウィンウィーンと揺れながら音を作る。

黒人ブルースの発祥は祖国アフリカを思うノスタルジー。白人のエルビスはブルースからウィーピング(揺らぎ)をなくしたロックを作ってしまう。ノスタルジーには縁がない若者にロックはあっというまに広がる。

ブルース的要素を残して発達するロックはビートルズという天才が現れ、ありとあらゆることをやってしまう。ロックはヘビィメタルとなり、ついにはメロディーすら拒否したパンクとなった。パンクはメロディーを消すという斬新さはあったが、それゆえその後の進化はのぞめなくなった。

同時期にデジタルを使いグルーブをまったく消して音楽を成立させようとするバンドが生まれる。クラフトワークでありYMOだ。テクノは一時期を席巻するが急速に姿を消す。

そして1990年になるとオルタナティヴロックへ。インディーズレーベルから「ニルバーナ」が生まれる。以降音楽はジャンルで語られることはなくなってしまう。個の時代だ。

美術も15世紀末ダヴィンチが生み出した遠近方と陰影を使い写実的に描いていた時代から印象派が生まれ、1990年頃にゴッホゴーギャンが影をなくし抽象化が始まる。印象派セザンヌの影響は大天才ピカソによって絵から遠近感を消しさってしまった。

陰影をなくすことは音楽で言えばロックだ。抽象画の行き着いた先はダダイズムでありシュールレアリズム。無意味を唱えるこれらはパンク音楽と同じと考えると、やはりあっというまに終焉を迎える。

そして戦後アメリカ現代芸術がスタートするのだ。

陰影、グルーブは揺らぎ。揺らぎに人はセンチメンタルやノスタルジーを感じるのではないか?そしてそれを取り除こうとする歴史が見える。

写真は今、確実にl揺らぎを消す方向にある。手触りをなくしかけ、ある種の倦怠感が生まれているのも事実。そこへ昨今の写真集ブーム。手作りのものが急速に受け入れられている。糊跡や折り跡が残るものを好んで買う人達が急速に増えた。

これからどう進むかなんて分かりっこないが、新しい写真の時代がすでに始まっているのは肌で感じる。