インドネシア2012 その4 右手の味

フェリーに観光客の姿はなかった。大型バスも乗り込んでいるが、それはジャカルタから島と島を乗り継ぐロングドライブバスで、丸二日かけてスンバワへやってくるものだった。

船の中にはギターをかき鳴らして歌を歌っている三人組がいて帽子に投げ銭を集めている。結構な人がいくばくかのお金を放り込んでいた。

おばさんがバナナの葉っぱに包んだ何かを売り歩いている。それを目で追っているとアディさんが買ってくれた。中身は白米と玉ねぎやナッツを辛い香辛料であえたもの。おやつに食べるくらいの量で、これがおいしい。この旅で初めてローカルな食べ物を口にした。

その後スンバワでの3日間はずっとローカルフードばかり食べていた。それしかないのだ。基本は鳥を揚げたもの、鳥を丸ごと焼いたもの、焼き鳥、魚を揚げたもの、魚を焼いたもの、魚の肉団子汁、各種カレー、チャーハン、焼きそば。まあこんなものだ。そこへサンバルという唐辛子の調味料が必ず付いてくる。

ご飯は白米なのだが、炊いたものではなく茹でこぼしという調理方法で、ふわっともっちりじゃなくて、ゴワッとボソボソしている。それをスープや料理ソースの汁もので柔らかくして食べる。日本のお米に慣れたものにはあまりおいしいと感じるものではない。

ドライバーのアディさんも息子のフィアンさんもスプーンは使わず必ず右手で食べている。ご飯を汁につけコネコネと指を回すと、すくいあげるように米粒ひとつこぼさず器用に食べる。左手はいつもテーブルの下だ。

鳥も魚も骨付きだから、身を外すにはどうしても左手を使いたくなるところだ。しかし全ての動作を右手一本で行う。彼らにとって左手は不浄ものだ。

一緒に食べていると左手を使うのがどうにも申し訳ない気がしてくる。かといってスプーン一本では食べづらい。結局僕も右手で食べてみることにした。

すると今までボソボソだったお米がしっとりすることに気付いた。汁をご飯にかけてちょうど良い堅さになるように指でチョイチョイとこねるのだ。するとスプーンで食べている時とはあきらかに食感が違う。

今まで何度か右手で食べることに挑戦したことがあったが、こんなに味が変わったのは初めてだった。もうこうなるとスプーンを使う気がしない。日本料理はお箸を使わないとおいしく食べられないように、インドネシア料理は右手で食べるのがいい。

今回12日間で一番おいしいと感じたのは10本100円の焼き鳥「サテ」。スンバワのマーケットで焼いていたもので、ちょっと辛いピーナッツソースとの相性は抜群だった。

魚団子のスープ「バクソー」85円も懐かしい味だったし、屋台の焼きそば「ミーゴレン」は大盛りにしてもらって75円。立派な夕食になった。

現地の味が体に入ってくると段々写真を撮る気になってくる。スンバワに入ってようやくバックからカメラを取り出した。